~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第一章 若き連続殺人犯

精神が高揚したせいで、はからずも、ほほを紅潮させてしまった東。そのわけだが…? すくなくともかれが年少だから、ではない。 成人から五年、はや二十五歳になり、“紅顔の美少年”に、その因をもとめるにはムリがあった。たしかに、 […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに(01)

2018年製、メガネ不要の3D8Kテレビの画面上に突然、“ニュース速報”というテロップがうかびあがった。その右隅には、むかしからテレビ画面にそなわっている機能として2022-12-15(日)0:26の文字が無機質に。 と […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに(02)

さても、各自が急行し事件現場を確認した矢野係の面々も、そしてかれらが尊敬する上司、星野管理官四十五歳の強面(こわもて)の眉もが列席する緊急捜査会議だが、すでにはじまっていた。 いまだおおきな政治力を有する元首相の射殺事件 […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (03)

さて、今回のようにアリバイ捜査にたいし通常の期待をもてないばあいでも、捜査上有力な手がかりとなる別口がある。 それは世間周知のとおり、動機である。 殺人事件においてはとくに、犯行動機の特定も捜査するうえでの力のいれどころ […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (04)

ところでせっかくだから、すこし脱線して、要人暗殺について。 近代日本といえる明治以降においてひとりの命をうばった、しかも日本国内でおきた事件としては、今回の暗殺がその影響から空前といえるであろう。 などとかけば、不同意と […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (05)

ところでときをまき戻し、事件発生から三日目の午後十時からの第三回捜査会議にての主たる報告を、星野管理官がぶかに命じまとめたのだが、それに目をとおすとしよう。 狙撃現場を特定できた。(この報告は、前日の第二回会議ですでにな […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (06)

さて、既述したとおり、狙撃現場の特定についてだが、銃も薬莢ものこされていなかった。さらに、星野と矢野は想定していたのだが、指紋も検出できなかった。 くわうるに、ほこりにまみれていない体毛、もしそれがおちていたならば、ふだ […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (07)

その遠因……嗚呼、かれがまだ十歳のときにこそ見いだせよう。それは、 ふだんの生活において想像できるはずのない、とつぜん感受したる刹那の悲嘆。 それが悲憤に変わるか変わらぬうち、心身をこおりつかせるにあまりある衝撃を、まだ […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (08)

またももどす、今度は、12月21日日曜日午前八時半からの緊急捜査会議のあとに。 現事件だけでも胃がいたくなるほどなのに、今以上のもんだいとなるのではと想像させる不吉がじつはある。 否、そこまで深慮しなければならない未来予 […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (09)

いっぽう、岩見事務所への家宅捜索も午前九時にはいり、十時少しまえにはおわっていた。 そのさい、原刑事部長は鑑識員に、パソコンのデータをすべてダウンロード(原本の存在が明確であれば、そのコピーは証拠能力をもつとの、2021 […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (10)

四十日以上、つぎの事件が発生しなかったことで、緊張感をたもっていたつもりの警備担当者たちのこころに、いつしか安堵や油断がしょうじていたのだろうか。 目ざめから床に入(い)るまで、いや、夢のなかまでも緊張感を保持する毎日。 […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (11)

ともかくも、“七年以上の猶予期間”の謎ときがふりだしにもどってしまった。情けないはなしだが、いまは頭を抱えこむことしかできないのである。 それでも念のため、こんどは昨年の一月十一日を最終期限として、前回の条件にあてはまる […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (12)

さて、そんな矢野の六日前に、場面をもどすとしよう。 藍出からの報告のあと、「足立区千住大川の荒川河川敷の公園以外で、ドローンを操縦できる河川敷公園を地取りしてみるというのはどうでしょうか」行きづまった捜査を打開すべく、星 […]

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~ 秘密の薬 ~  第一部 悪法への復讐 / 第二章 殺人事件が立てつづけに (13)

ところで和田からの報告を矢野がうけた三時間後、やってきたべつの警察官がいた。鑑識課員である。指紋採取と、似顔絵作成のためであった。 しかし会長もふたりいる中年の女性事務員も、西の印象には自信なさげになっていった。 なぜな […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第三章 矢野の推理

第三章     矢野の推理     和田は、観察の結果報告をおえた。 「和田さん、ご足労だがもういちど岩見の後援会事務所にいって、犯人の特徴を聞きだしてくれませんか」年長者である和田にたいし、つねに敬 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 /  第三章  矢野の推理(2)

ところでこの成果の報告だが、星野管理官により、トップにまで十数分でとどいた。 警視総監はそれをうけるやいな、黙考したのである。そして、犯人と断定しても差しつかえない偽名西は、特殊部隊隊員ではないかと推理したのだった。 す […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 /  第四章  犯人逮捕 (1)

さっそく、警視総監にまでもたらされた矢野係による情報……東浩造、二十五歳、男性、陸自退職者は、かれひとりしかいなかったのである。 退職日だが、昨年の九月二十日であった。最初の犯行日まで約三か月。週刊誌からえた場壁のよるの […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 /  第四章  犯人逮捕 (2)

翌朝、矢野は藤浪に手まねきし、耳うちした。数分を要した。 だまってうなずいた藤浪は手配すべく、しっかりした足どりでデカ部屋をあとにした。その眸は凛として、手はずに自信ありと、闘志すらみなぎらせていた。 昼まえにもどってき […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(3)

しばらくそこで待つと、住人がエレベータでおりてきた。玄関をでていく住人とすれ違うようにして、オートロックのドアを通過したのである。 隣の501の住人が在宅しており、しかもおばさんだったのはラッキーだった。 で警察手帳をし […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(4)

ところで、今しがた藤浪にかかってきた厚生労働省からの電話、国民年金加入者のなかから探しだしたけっか、東浩造の現住所がわかったとの連絡であった。本名と生年月日とおおまかな住所というデータを手掛かりにしたのだが。 ほかの省庁 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 /  第四章  犯人逮捕 (5)

それと並行しての憶測。やつはクルマを所持していないのではないか、だ。むろん、防犯カメラに撮られないように、所有のクルマはつかわなかった、も、じゅうぶんにありうることだが。 それはそれとして、上記の推測をおしすすめると、お […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 /  第四章  犯人逮捕 (6)

ところでやつの住所を突きとめるにあたり、じつはのこる二カ所、財務省の国税局と、東京都を統括する警視庁、以外のデータ、たとえば神奈川県警や千葉県警などの情報ももっている警察庁が、それを掌握しているかもしれないと矢野はかんが […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 /  第四章  犯人逮捕 (7)

さて、矢野が頭のなかでえがく包囲網だが、いまのところ狭まりつつあった。 しかしながら、油断は大敵である。四方八方どころか、上下にまでも包囲網をもうけ、ぬかることなく細心の注意をもってのぞまねば、大魚をとり逃がすことになる […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(8)

ではほかに?と、試行錯誤(いろいろ試しつつ、成功にちかづける)のための思考をつづけた。それこそ、マッターホルン東壁(ひとを拒絶する、東の絶壁として有名)に爪をつきたてんとする懸命さで。 まさにだ、必死でかんがえぬいてはく […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(9)

ぎゃくに、犯人にとってはアリの一穴だ。それに端をはっするところの破綻だが。まず、その一穴は、いったいどこにあるというのか、である。 それがあると信じ、なんとか探しだす!全精力をそこに集中させるしかないと。 ほころびを見つ […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(10)

ここで、我にかえった。で、矢野流の捜査法をいったん、しまうことに。 そのとき、のどの渇きをおぼえた。藍出がいれてくれていた茶で潤すと、 気持ちをいれかえ、こんどは捜査の原点にたちかえり、五つの事件の経緯をすべて掘りおこし […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(11)

さて、矢野の脇道ついでに、筆者もここで東の心裡をわずかではあるが、垣間みるとしよう。 俯瞰を、時・空間においてするなら、入隊時は復讐のみであったが、しだいに常軌からの逸脱をすることとなり、信じがたいほどの飛躍とその実行計 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(12)

さて、矢野のことに戻すとしよう。 で、それた脇道を修正し、試行錯誤的思考を、いまだつづけていたのである。 やつといえども、どこかでミスをしていたのでは、と再度。だがどこをどう足掻いても、“ここをつつけばあるいは?”すらも […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(13)

矢野は、ある居酒屋ののれんをくぐった。 その向こうにあったのは、底抜けにひとの好いふたつの笑顔だった。 「こんばんは」というなり彼は二階の住居部分にあがり、仏壇のまえに鎮座した。そこにはわかくして病没した、前妻貴美子の位 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(14)

物的確証の入手。しかしそのためにはまず、東が盗んだくるまを見つけださねばならない。 すでに、和田警部補にはたのんでおいた。だが、捜索範囲が漠然としすぎている。くわえて、おもった以上に難航したのは、矢野が推察したとおり、軽 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(15)

 いよいよの、DNAの照合である。東のデータは、防衛省からとりよせればいい。 これらを知っての問い合わせで、あすの午後一番でけっかがでますよと、科捜研から藤浪がそうきいたのだった。 でもって合致すればやつに、逮捕状という […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(16)

 で二日後、Nシステム(自動車ナンバー自動読取装置)も活用でき、この軽トラの駐車ばしょを特定できたのだった。  あとは、変装した東をみつけだす作業のみがのこったが、翌日の朝一番で完了したのである。 変装をし、歩容認証もご […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(17)

    取調べ  取調べ室では、先刻のうちの、藤浪をのぞく三人と東が対峙していた。  その一時間まえ、自宅の、ノックをされたドアを開けでてきた男をみて三人はなるほどと、アイコンタクトで賛同したのである。逮捕直前の東の、頭 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(18)

ところで、警察をさんざん玩もてあそんだこの若者。プロの巨大組織が愚弄された因のひとつが、変装の技量にあった。目撃者が、ついで警視庁がものの見事、幻惑されてしまったのである 矢野も和田も、目撃者の記憶だけにたよる危険性を、 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(19)

「結構です、審判がくだるまでは推定無罪でもあり、あなたの権利でもありますから」そして、しっている弁護士はいますかと、横からくちをはさんだ。  さっそく東は、ある法律事務所へ電話をかけた。慎重居士のせいかくから、最悪こんな […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(20)

いっぽう矢野は、被疑者を落とすその手ほどきをとおもい、実演しているのだ。 「窃盗自体、いい逃れができないと諦めたのなら話ははやい。というのも、そのドローンが第四の犯行(発生時刻がすこし早かった)につかわれたからね。いわん […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(21)

 と、このとき、水入りではないが、矢野のスマフォが鳴った。 「どうでした?出ましたか」矢野は、期待しつつ問うたのだった。 「おそらくは、だいじょうぶかと」信頼する、経験ゆたかな鑑識課長の返事だった。 むろん、このやりとり […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(22)

ところがだった。 あろうことか。ここで刹那、連続殺人犯の、…ニヤリとほほがひらいたのである。あにはからんや(=意外にも)、というやつだ。 えっ、なぜ?たんに、開き直ったからなのか。 否。それは…、==なんだ、その程度か= […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(23)

いっぽう、キミから、あなたへと丁寧になったのを、連続殺人犯は聞きのがさなかった。 「ボクは犯人ではない!だから部屋から、なにもでるわけがない。忠告しておくが、税金のムダ遣いとなるから、しらべるなんてまあ、やめたほうがいい […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(24)

ところで、じつは、東がなした既述の工作も、矢野には織り込みずみだったのだ。 でもって、東の手練てだれに気づいていないふりをしていただけであった。安心させ、気をゆるませ、油断をさせるために。 だから逮捕におもむくその事前に […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(25)

 いっぽう、一抹の不安が、東のかすかな眼の動きと眉からみてとれた。 この、絶好のタイミングをはずすまじと、 「あ、言うの忘れてた。さきほどの電話だけど、じつに、吉報そのものだったよ。それはな…」と、これみよがしに破顔(ニ […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(26)

 ところで先日、矢野が苦悩しつつやっとこさ思いついた、東が、上手の手から水をもらしたような,愚かしいミス、爆薬製造が冬だった云々のくだりだが、このことだったのだ。 「おまえ、寒さでもしも手がかじかんでしまったばあい、爆薬 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(27)

さすがに、頭のうえに設置されたエアコンにまでは、知能がおよばなかったということだ。可視できない塵埃にまでは、頭がまわらなかったのである。 もとより東にすれば、エアコンが室内の空気を吸ったあと、熱交換し吹きだす、くらいのこ […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(28)

それを潮時(グッドタイミング)とみて、矢野は供述をとることにした、しかも、ある策略をかくしもっての。 「事件にかんし、いくつか教えてほしいんだが、いいかな?」  連続殺人犯は、無表情のまま、ちいさくうなずいた。 「まずは […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(29)

いっぽう、どさくさにまぎれて、認めさせようとの目論見・策略だったが、かんたんに見破られてしまった。そこで矢野は、第二案でもってすすめることにしたのである。 「これは失言。動機から、こっちが憶測でそう睨んで、それで…。…だ […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(30)

 下調べをしている身(東)からすると、その姿、不審な行動をしていると、ひとはみるであろう。ならば、世間もだが、とくに警察官の緊張感がとぼしいにこしたことはなかった。 時間があいたというより、必要があって、あけていたとの供 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(31)

しかし、「なるほど、復讐するのもたいへんだな」矢野は皮肉った。「さて、今のはなしで確信がもてたよ。なぜ、一件は時限爆弾なのに、もう一方はドローンをつかったのか。同時にでないと、もう一方が警戒するだろうと」 「どちらも、場 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(32)

ふつうにかんがえれば、通院のためなら、おおよそ正確な時間に出かけるだろうにと、矢野はおもった。だがここはあえて、執拗にせめるべきではないとした。まだまだつづく取調べにおいて、執拗に質問するばあいもでてくるとみたからだ。 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(33)

「岩見の、毎年恒例の誕生日パーティーがちかいことを、本人名義(じつは秘書まかせ)のツィッターで事前に知っていたキミは、爆発物を宅配で配達させる、まずその手はずとして、岩見の地元後援会事務所にボランティアといつわり入りこん […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(34)

いっぽう、腹に一物をひめた東ではあったが、いく通りかの歩容認証の変幻自在にはそれ相応の苦心があったとして、おおきくうなずいた。で、そのあと、 「化粧品をつかって目のしたにクマを描けば、七・八歳はうえにみえる」と正直に。 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(35)

そうかんがえると、べつの光景がみえてきた。 東にとって、じつはドローンを盗むに必要不可欠で、とうぜんながら綿密な計画の一部だったとの、あくまでも想像ではあるが。しかもだ、「背が低いじぶんだからこそうってつけです」と、そう […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(36)

いっぽう、たんなる通行人のひとりとなることができた被疑者は、なにも恐れなくてすむ。むしろ、素顔だからこそ安心できたのだ。 ふつうなら、被疑者の素顔が報道により知れわたった、世間でよくある事件と、今回はあきらかにちがった特 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(37)

これも、あらかじめの計画だったのか、今しがた思いついたパフォーマンスなのか。  供述を撤回する被疑者をなんどもみてきたデカたちは、黙ってきいていた。 「変装につかったとする道具とやら…。家宅捜査ででてきましたか?」上機嫌 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(38)

しばしの静寂の戦いくさに、やや気おくれした連続殺人犯が、息づかいをすこし荒くしながら、「この件にかんしては堂々めぐりだしな」と唐突に。 東はあきらかに、自供をなかったことにしたいのだ。  矢野たちは勝手ないい分とおもった […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(39)

いっぽう、散々な目にあわせたデカが相手だけに、さきほどまでの漲りぶりとは雲泥の落差を、半信半疑の眉で看視ながら、「それでもあんたのことだ。なんとかするつもりなんだろう」と、探りをいれたのだった。 「なんとかできればねえ… […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(40)

検出した爆薬の精密検査を懇請し、その結果がでたとの、であった。徹夜しての“成分、完全一致”というみじかい六文字に、矢野はおもわず相好をぐずしたのである。  じつは、取調べ、いや、自供させるタイミングにあわせての結果をいそ […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(41)

 この東の言動に矢野は、「えっ!」という表情をみせたのだ、がじつは、ひっかけの一環だった。直後、マジックミラーのむこうの藤川に、予定変更のサインをだしたのである。 それに気づくはずのない東。「それはそうと、いかなるデータ […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(42)

ではコンピュータに精通し、第一級技能のハッカーに比肩する人物とはだれか? 既述したとおり、藤川をさしていた。そのかれなら、いまは隣室にて見学中である。そこへ唐突に、“あっかんべえ”のサインが送られたのだった。 さて、取調 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(43)

とここで、見たての内容を読者に知っていただこうとおもう。そのためには、矢野がだした指令などを、あきらかにする必要があろう。  事のはじまりは一昨日の夜のことだった。群馬県の某いなか町のスナックでおきた、暴力団どうしによる […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(44)

現在、ひとえに矢野班がたずさわる連続殺人事件を解決すべく、警部の頭のなかはさらにめまぐるしい。 ライフル銃を手にいれたい復讐者がひとり、と矢野。 いつものように、犯人になったつもりの推測をしたのである。以下がそれだ。 必 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(45)

 むろん、指し手(この場合は追いつめる手法)をまちがわないこと。それに尽きるとして、矢野の方針自体はゆるがない。 「なあ、正直にいえよ、さきほどの報告だが、ほんとうはものすごく気になっているんだろ」ニヤリ笑った。 その唇 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(46)

ところで連続殺人犯は、いままでのを見聞きしつつも、さも興味なさげに、こんどは右上へ目玉をうごかし、ついで顔を右へそむけたのであった。 ちなみに、なにげにみえるこの仕草こそ、思考をつかさどる左脳を、フル回転させた証左だった […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(47)

そんな心裡を見透かしたかのように、「あとで弁護士がくるというのに、こちらの手の内はあかせないよ」とだけ言った。 ついで、追いうちをかけた。「だから、バカは使えない!と。誰でもそうおもう、だろ?たしかにな。削除しておけと、 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(48)

さらに独壇場はつづく。 「そうでなくても、人というのは、期待どおりには動いてくれないもんだしな。おまえ、今、心あたりがあるといわんばかりの表情になったな。そうか…、大変な目にあったもんな」それとなく同情してみせたのだ、名 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(49)

……ここからしばらくは、東に注目していただこう。 さすがに堪えきれず、“もはやこれまでと”、跳びはねるようにして立ちあがったのだった。矢野とのギリギリの心理戦にいたたまれず、ついには呆然と、つったってしまったのである。 […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(50)

ところで、ふだんの矢野だったならば、こんなダーティなマネはしない。 いうまでもなく、だましとひっかけを使っていることが、ダーティだというのだ。 “兵庫山口組とのメール、ライフル売買の。チンピラが残してたのを…見つけたよ” […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(51)

さて、ここにきての、東の急変に満足しながらの矢野だったが、手綱はゆるめない。「それにしても、完膚なきまでというにふさわしい、惨めすぎる敗北だな」 敗者に容赦しないのは、つぎに言いたい大事のための布石であった。 「おまえが […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(52)

送検後の担当検事の職域だと判断したからだ。裁判員や裁判官の心証を、検察側へ誘引するためになにをなすべきかは、検察官の仕事だとして一線をひいたのだった。 ところで饒舌がもどった東にすれば、いいたいことがまだまだいっぱいあっ […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(53)

それはそうとしてもし、このおとこが逮捕されなかったばあい、このあとの人生をどう生きるつもりだったのか。 復讐の完遂で燃えつきたのか、そうでははく、つぎなる目標をもっているのか、ということだ。 連日、矢野が物証の有無につい […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(54)

ゆえにとうぜんのこと、矢野は逆恨みも泣きごとも、さきほどまでのようには許さなかった。しょせんは、じぶん勝手な動機にすぎないとわからせたかったのだ。 いっぽうの連続殺人犯、東、“銃でころしたやから以下”そういわれて、やっと […]

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~秘密の薬~  第一部 悪法への復讐 / 第四章  犯人逮捕(55)

そんな被害者家族である矢野一彦の言が、犯人の耳には、焼き鏝ごてを当てられたようにはじめは熱く、やがて痛みとしておそってきたのである。 それでもだった、うなだれつつも、東は矢野の説得力、否、陽だまりのような温もりの人間力に […]

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~秘密の薬~  第二部 (1) 

「話はかわるけど、今年に入ったくらいからかなあ、殺人とかの凶悪犯罪、統計によるとかやないよ、ただの実感や。けどそれにしても減ってきたなあと…。ふたりはどう思う?」 「なるほど。いわれてみれば、そうやな、たしかに。けど、も […]

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~秘密の薬~  第二部 (2) 

うって変わって以下は、かの、居酒屋での雑談より翻(さかのぼ)ること、五年ほどの情景である、 ちなみにそれ以上が経過したのちに判明した異常な事実、その一部をまずはここにしるす。 酔客とは真逆の、真剣な表情たちが密談中。面々 […]

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~秘密の薬~  第二部 (3) 

多大にすぎる人命、五大陸の尊いいのちを奪いきずつけ、世界経済をもガタガタにしたこの顛末、長編のドキュメンタリーに仕上がるだろうが、ボクの任にはあらず。 でもって、通常国会の会期中ともなれば面々は予算委員会などの審議にあっ […]

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~秘密の薬~  第二部 (4)

錚々(そうそう)たるメンバーというほかないほどに、キャリアとされている人たちからみてもまさに雲の上の、威張りくさった連中なのだ。 ただし密談のゆえに、日頃はまるで召使いのようにこき使っている秘書たちではあるが、同会議にか […]

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~秘密の薬~  第二部 (5)

ならばこそと、さらに憶測をかさねるしかなかったのである。 その結果だが、記すにためらいたくなる、最悪のシナリオであった。 さすがにそれは…背筋に悪寒がはしる事実だ。 だとしても、最悪とする想像が杞憂であれば、まあそれはそ […]

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~秘密の薬~  第二部 (6)

まずはあることわざの意を、このあと用いるとしよう。 そう、キャリア六人組が常日頃から自信をもっていた目論見。ではあったが、残念なことに完ぺきではなかったという事実だ。 なにを隠そう、“アリの一穴”がじつは存在したから、な […]

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~秘密の薬~  第二部 (7)

くだんの極秘会議における決議の二日後(だったらしいのだが)、固定の六人以外の、部外者をまじえた合流会議が、こちらも秘密裡にひらかれたのだった。 ところが、というよりも案に大いに反してというべきだろうが、端を発した(ほころ […]

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~秘密の薬~  第二部 (8)

で以下が私説なのだが、同会議がある意味、約百年後の第一次世界大戦の遠因となった、と。さらには、約20年後の第二次大戦へとつながっていった云々。 じつはナポレオン戦争の前後、ヨーロッパはいまだ多くが小国乱立し、現在のようで […]

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~秘密の薬~  第二部 (9)

反動の最大の因(民衆の覚醒)と推進力。それは、やがての進化していく産業(工業)革命であった。 技術革新、そして資本主義の近代性的な成立などにより世界的波及(日本の近代化も)として、ギリシャ独立、イタリア統一運動、ドイツ統 […]

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~秘密の薬~  第二部 (10)

他方の日本に話をとばすと、清須会議という史実がある。信長死後の、秀吉による日本統一の端(山崎に戦いでの勝利があってのこと、ではある)となった、それを裏面からみると血みどろの会議であった。 例を挙げればきりがない。が、歴史 […]

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~秘密の薬~  第二部 (11)

ちなみに局長クラスからの命令ともなれば、部下は唯々諾々とその命を実行するだけで、異論をはさむやつなどいるはずがない、とかれらは高をくくって生きてきた。 それが茶飯事であり、だから習慣化しており、異をとなえる人間がいるかも […]

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~秘密の薬~  第二部 (12)

かれの妻がそばにいたにもかかわらず、だ。むろん、心をゆるしているから洩らしたのだろう。 さらなる忖度のついでだ。穿ってのはなしだが、生きる気力をうしなうような苦衷をだれかに聞いてもらいたかったからではないかと。 相手がほ […]

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~秘密の薬~  第二部 (13)

人というのは、こんなふうな脆さをもっているのであろう。ふだんは沈着冷静な人物であっても、激しすぎる動揺のせいで、おもわず漏らしてしまったのだ。いやはや、そうにちがいない。  ところでこのあとのことだが、まるで“ […]

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~秘密の薬~  第二部 (14)

そんな強要をしたときの夫の形相と声のすごみ、幼稚園児から知っているが、はじめてみせる別人であったと。 企業生き残りをかけ株式公開買付等のM&Aののちは世界第五位、日本最大の製薬会社となったその新薬開発部の部長兼平取締役を […]

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~秘密の薬~  第二部 (15)

頑(かたく)なに、まるで牡蠣のようだった。 それでもあきらめきれず、日時や状況をかえ、そのたびに訊いてみたのだが結果はおなじで、頑として、打ち明けることはなかったのである。 ならばと、「その要請、断れないの?」とも問うて […]

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~秘密の薬~  第二部 (16)

断れば、だれかが引き継いでプロジェクトを完成させるだけのこと。なぜなら、くだんの合流会議に同席していたCEOが、官僚たちの要請を即決でうけ入れたからだった。 すでに地ならしされていたにちがいないと、トップのその場でのよう […]

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~秘密の薬~  第二部 (17)

 じぶんは用済みとして、ヘタをすれば、殺されるかもしれない。ある意味、国家存立にかかわってくる極秘中の極秘をしってしまったのだから。  まさかとは思うが…。それでもかれは、最悪を想定する、慎重居士でもあった。  つづけて […]

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~秘密の薬~  第二部 (18)

  で、じつはこのとき、最悪の事態がそう、のどまで出かけたのだった。  しかし言えなかった。愛する妻に心配をかけたくなかった、がいのいちばんの理由。  ついで、どのみちプロジェクトを完成させるしかないのだ、ならば自分が長 […]

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~秘密の薬~  第二部 (19)

ところで、このあたりの裏事情をもし知ったひとがいたとしたならば、長息をもらしたであろう。こんなにも血のにじむが如き部長の想いにたいして、あまりに気の毒で大変そのものだと。  やがてわかる、どれほどに血まみれていたかという […]

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~秘密の薬~  第二部 (20)

光陰矢のごとしという。たしかにそのとおりで、夫が、暗い眉目で終始したあの日から、はやくも三年と数日が過ぎていた。 その間は、赤木夫妻に特筆すべきようなことは何も起きなかった。なぜなら例の件については、沈黙が続けられたまま […]

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~秘密の薬~  第二部 (21)

しかしながらなんの因果か、最悪としかいいようのない青天の霹靂が…。 このおしどり夫婦にまさかの、それはそれは、とんでもない事態がおきてしまったのである。 その、二ヶ月ほどまえだったのだが、「あけましておめでとう」との年始 […]

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~秘密の薬~  第二部 (22)

  しかしながらなんの因果か、最悪としかいいようのない青天の霹靂が…。   このおしどり夫婦にまさかの、それはそれは、とんでもない事態がおきてしまったのである。   その、二ヶ月ほどまえだったのだが、「あけましておめでと […]

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~秘密の薬~  第二部 (23)

  「社長の命でとりくんでいた仕事も、二月末かおそくとも年度末には完遂する。これを機に、まあ潮時だし、退社することにしたよ。これで、妙とゆっくりできるね」   こう、こともなげに垂れめがちの眼が微笑みつつ、厚めのくちびる […]

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~秘密の薬~  第二部 (24)

嬉しさに、身も心も浸りたかったからだ。それには無言だったが、顔一面にひろがった笑顔がそのこたえとなっていた。十歳は若やいだ妻が跳びあがらんばかりに喜んだ、のは言うまでもない。やがての二ヶ月後。赤木取締役は、慕われている部 […]

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~秘密の薬~  第二部 (25)

送りだす祝いの会がお開きとなったその帰宅途中、車にはねられて、帰らぬ人となったのである。それは、二月末日の夜半のこと。凍てつくような寒い夜がつづき、そのせいで、路面には薄氷がはっていたもようである。そういえば現場となった […]

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~秘密の薬~  第二部 (26)

ところで、轢過(車両がひとを轢くこと)の状況はどうであったか。泥酔状態の男性(赤木敏夫と免許証から判明)が、歩道を千鳥足で歩いていた、と警察の調書に。加害者と目撃者の供述によったと、後日。

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~秘密の薬~  第二部 (27)

で、なんかの拍子に、車道にたおれこんだのだが、まさにその瞬間、その上半身をひいてしまったと、自動運転車の運転席に乗っていたおとこが、そう供述したのである。千鳥足だったうえに、今夜は寒さもとくに厳しいですから、路面が凍って […]

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~秘密の薬~  第二部 (28)

「いくら自動運転車でも、避(よ)けようも停車しようもありませんでした」申し訳なさそうに、駆けつけた警察官に頭をさげたというのである。これらの陳述は、事故発生から約十四分後のことであった。ちなみに警察官の到着は、通報から約 […]

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~秘密の薬~  第二部 (29)

事故当時者はトラック運転者としての歴もながく、あたり前だが飲酒もしておらず、提示した運転免許証は、無事故無違反のゴールドであった。で、この供述にウソのないことが、べつの担当官による聴取で確認されたのだった。「駅方向にむけ […]

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~秘密の薬~  第二部 (30)

どうじに警察官たちは、さらなる検証もつづけたのだった。で、そののちのこと、現場を管轄する八王子警察署がだした結論。それは事件性のないたんなる人身事故、であった。

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~秘密の薬~  第二部 (31)

葬礼のつぎの日、電話で報告をうけた妻の妙(たえ)。現場検証のあらましとふたりの供述内容、そこから導きだした結論などをつげた担当官はその最後を、「せまい道路でガードレールも設置されておらず、もしそれがあれば車道に転げでるこ […]

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~秘密の薬~  第二部 (32)

ではあったが、かのじょは納得など全くしなかったのである。電話が切れたあとのことだったが、「なにを馬鹿な!」しだいに増幅していった怒りは、発したこの一言に凝縮していた。それで十日後、「再度の捜査を」と署へ、懇願、というより […]

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~秘密の薬~  第二部 (33)

それにしても葬儀後の妙は、最悪の体調ですごすこととなった。高熱に咳,嘔吐、悪寒に頭痛、大切な家族がいなくなったことが、どれほどであったか。 そんななかでも、かのじょの人柄が如実にでたことがあった。遠来の友人の訪問には、必 […]

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~秘密の薬~  第二部 (34)

そうしてのやがて、元来頑健な体の持ち主だったおかげと訪問診療をうけたことで、症状はほぼ治まったのだった。ようやくのこと、声から、先日とはべつだと判断できた担当官に、「泥酔が原因だなんて、夫にかぎって…」憤慨の色がみちみち […]

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~秘密の薬~  第二部 (35)

くわえて「年齢のわりには、足腰ともに衰えしらずを自慢にしていたほどです。だから、転倒なんて」と、そう懸命に訴えたのだった。 しかしながら担当した警察官は、検証において「たとえ第三者がみたとしても、非の打ちどころなどないと […]

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~秘密の薬~  第二部 (36)

ひとは、千差万別の存在だ。だから身勝手ないい分を吐いたり、また感情的な言動をするひとも少なくない。そんな輩(やから)が署にもたびたびやって来ると、実体験からおもっているし、口にもした。こういうような経験知のなかに棲むかれ […]

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~秘密の薬~  第二部 (37)

こちらは充分に調べたのだからと、腹のなかはそうであった。まさかの無体を吐く、かれにすれば鬼クレイマー、でしかなかったのだろう。しかしだとしたら、なにぶん経験の浅い、だからこそよけいな先入観にとらわれた仕儀のひとだ、そうい […]

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~秘密の薬~  第二部 (38)

まあそれはともかくとして、かれは杓子定規的に以下、「泥酔の証拠として、血中アルコール濃度の数値を比較すればわかりますから」との主旨を、慇懃無礼にのべたのだった。どうしてわからないのかと、それを訝りながら。

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~秘密の薬~  第二部 (39)

運転者(自動運転車だから)はゼロミリグラムだったのにたいし、「ご主人は約200ミリグラムでした」とここは客観的数字で。そして、通常なら泥酔状態となる量だと追加したのである。

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~秘密の薬~  第二部 (40)

いっぽうの妙がその説明からうけた印象はというと、いわゆる“いい分”でしかない、だった。感情的にとはいえ“いい分”としたのには、かのじょなりの理屈もあった。ただしはた目には、屁理屈にきこえる代物ではあるが。

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~秘密の薬~  第二部 (41)

しかしそんなことなどお構いなしの妙は真剣な眸で、計測そのものに不備があったのではないか、また、不備を確認するための検証はしたのか?と、体ごとぶつけんがごとくに詰め寄ったのである。

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~秘密の薬~  第二部 (42)

まだわが子とおなじくらいの年のくせに、役人根性だけは一人前。おもわず、じつはここに怒りをおぼえたのだ。いや腹立たしさにおいて、比較にならないことがさらには。最愛の夫の死を、軽くあつかっていること。言動からそうとしか感じら […]

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~秘密の薬~  第二部 (43)

詰め寄った理由は、真にこれだった。ひとの死を真摯にとらえ、すくなくとも「その死の真相解明を徹底しなさい!」と。被害者側としては自然すぎる想いであり、真意だったのである。

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~秘密の薬~  第二部 (44)

ところで担当官からすれば、その立ち位置はまったくちがっていた。それでむろんのことだが、早速の反論としての牙をむいたのだった。「なにをバカなことを!日本の技術を見くびっているのですか。ましてわが警察の科学捜査を」

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~秘密の薬~  第二部 (45)

さ らにとどまることなく、「また、それこそ真剣に仕事をしたその成果ですよ。だから、不備などどこにもありえません!」そう言い切ったのである。しかしながら、「真剣に仕事をするのは当然で、しなかったなんて、それこそありえないで […]

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~秘密の薬~  第二部 (46)

さらにとどまることなく、「また、それこそ真剣に仕事をしたその成果ですよ。だから、不備などどこにもありえません!」そう言い切ったのである。しかしながら、「真剣に仕事をするのは当然で、しなかったなんて、それこそありえないでは […]

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~秘密の薬~  第二部 (47)

ところがそれを、担当官は間髪いれず制したのである。妙は一瞬ことばを飲みこんでしまった。その隙をつき、別口の証拠もあると発言したのである。

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~秘密の薬~  第二部 (48)

「目撃証言、くわえてのドライブレコーダーの映像」そのどちらをとっても、疑わしい点はなかったと確言したのだった。 「なんなら証拠の映像、おみせしましょうか。どうします?」と、顎を30度ほどあげるような尊大さでもって、髪のは […]

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~秘密の薬~  第二部 (49)

もちろんショッキングこの上ないものであり、さらに遺族にとっては、想像するだに震撼しないはずのない映像!にもかかわらず、それをなんと…。 このえぐい害意には当然のこと、ちいさく何度も首をよこにふったのだった。必要ないとの意 […]

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~秘密の薬~  第二部 (50)

この、当たりまえに噴出した激昂。 ではあったがそれをいま、だからといって感情にまかせてはダメだと必死で抑えたのである。いまも愛している夫のためにも辛抱すべきだと。耐えがたきを耐えたのだ、心中歯噛みしながら。

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~秘密の薬~  第二部 (51)

この、当たりまえに噴出した激昂。 ではあったがそれをいま、だからといって感情にまかせてはダメだと必死で抑えたのである。いまも愛している夫のためにも辛抱すべきだと。耐えがたきを耐えたのだ、心中歯噛みしながら。 荒くなった息 […]

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~秘密の薬~  第二部 (52)

そのうえで畳みかけるべく、いやそうではなく真逆の、じぶんでも意外だとおもいつつも、今度は態度を一変させたのだった、あろうことか。 「だからどうか、調べなおしてください!お願いします」 イスから立ちあがると土下座までではな […]

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~秘密の薬~  第二部 (53)

再捜査こそ本願なのだからと形振りかまわず、まさかの宗旨替え、プライドはないのかとさげすまれようとも、目的のためならばと方策を度外視することにしたのである。 “韓信の股くぐり”この諺をしってか知らずか、屈辱に耐えることをえ […]

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~秘密の薬~  第二部 (54)

“韓信の股くぐり”この諺をしってか知らずか、屈辱に耐えることをえらんだのだ。 ところがだった。拒絶表現として故意に、担当官は眼をそらしたのである。そしてひとつおおきく息をついたのだ、呆れて物がいえないとの意で。そうして徐 […]

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~秘密の薬~  第二部 (55)

「殺人ですよ、殺人!」と、一瞬だったが目の色までもかえつつ発したのである。そのあとすぐにだった、冷静さを示そうとふだんの眉に戻して、 「百歩譲ってかりにそうだったとしましょう。ところで、現場で聴取していた警察官はベテラン […]

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~秘密の薬~  第二部 (56)

「殺人ですよ、殺人!」と、一瞬だったが目の色までもかえつつ発したのである。そのあとすぐにだった、冷静さを示そうとふだんの眉に戻して、 「百歩譲ってかりにそうだったとしましょう。ところで、現場で聴取していた警察官はベテラン […]

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~秘密の薬~  第二部 (57)

しかしそこまでの言動にもかのじょは、「夫は老後の健康のため、テレビ番組でお医者が推す健康管理法を参考にし、また仕事への支障もなくすため、外での飲酒はとくに控えていたのです」 このように、まこと一途に訴えたのだ、すでにおお […]

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~秘密の薬~  第二部 (58)

というのも、被害者が男性の高齢者には似つかわしくない大きな花束、それを所持している姿が映像としてのこっていた事実があり、ちなみに映像はドライブレコーダーから得たもの、で、当たりまえだが、それをみた捜査一課の元デカだったベ […]

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~秘密の薬~  第二部 (59)

こんな個人的感情やスタンドプレイ、ほかのだれにとっても迷惑な話しではあるが。それでも、どういうことですかと訊く課員にかれは、スーツ姿、年齢、おおきな紙袋なども推量の糧だとし、事故にあった昨日が定年退職の日だったのだろうと […]

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~秘密の薬~  第二部 (60)

これには「なるほど」「さすが」と、全員が納得や賞賛をしたのである。赤木妙の懇願が受けいれられなかったのは、元刑事のこの発言にもよったのだった。それにしても若さは、忖度とは無縁なのか。斟酌においてはなおさらか。「深酒が原因 […]

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~秘密の薬~  第二部 (61)

いっぽうで、どうしてわかってくれないの…、信用してくれないの…。これが被害者の妻の、真情そのものであった。ちなみに“若造”と宣(のたま)ったこの猛々しい表現。ところで普段のかのじょには、まったくもって似つかわしくない。だ […]

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~秘密の薬~  第二部 (62)

いっぽうの担当官は、言葉つきこそ柔和ではあった。がしかし、ベテランたちの言動にすっかり得心してしまっており、被害者の妻に耳をかたむけるなどは、はなからするつもりなどなく、したがってまさに耳栓をしている状態だったのである。 […]

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~秘密の薬~  第二部 (63)

ついでいった。隣家の幼児によるけたたましい泣き声をほぼ毎日耳にしているひとがいて、「これって虐待でしょう?」との通報があればこれをうけつける、なども警察の役目のはずだと。 市民からの、犯罪の可能性をうたがう声が届いたら、 […]

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~秘密の薬~  第二部 (64)

ところがだった、 現場の判断を尊重しそのままを採用する、「それがわが署の方針です」とこのときも断言したのだ。つづけて、あろうことか面会すらも拒絶したのである。 現場と、その報告をうけた上層部、署内で見解が食いちがえば混乱 […]

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~秘密の薬~  第二部 (65)

たとえば現場は“殺し”だとし、だが上は事故死だと判断すれば収拾がつかなくなる。そんなこと、だれが望みますかとつけくわえたである。だが、それはお宅らの都合だとして、負けじとかのじょはとことん粘ったのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (66)

しかしながら、まったくもっての無駄であった。眼をあわせることもせず、ただ手を横にふっただけ。帰れということか。ならばと妙。つぎなる手として、「上司に会わせてほしい」と迫ったのだった。一歩も引くつもり、さらさらなかったので […]

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~秘密の薬~  第二部 (66)

ちなみにじぶんが、これほどに強い態度で他人にむかっていけるとは。はじめて知ったといえるほどの意外であった。 しかしそれはそれとして、 「じぶんこそが交通課の課長です」との案に反した、まさしく想定外の答えをかえってきたので […]

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~秘密の薬~  第二部 (68)

「ウソでしょう!」なんということ…。 もはや、取りあげてくれる人間などいないということなのか。それを思い知らされた衝撃、計り知りようもなかった。

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~秘密の薬~  第二部 (69)

=あぁあ=膝からくずおれそうになったのだ、なんとか堪(こら)えはしたのだが。万事休す。刀折れ矢尽きたるの心境が、いまこの場で立ちすくんだかのじょを覆ったのである。

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~秘密の薬~  第二部 (70)

署にきた目的、“再捜査”。これをさせずにおくものかとの意気込み。 だったが。なのにそれが瓦解した刹那だった、現まさに。 なんということ!これこそ、市民の生命財産をうばう輩からの防波堤となるべき警察が、絶対にしてはならない […]

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~秘密の薬~  第二部 (71)

すると今度は、憤激と恨めしさ、そして悔しさで、からだが小刻みに震えだしたのだった。瞋恚(しんい)(怒りや憎しみなど)、ここに極まったのである。 しかし担当官は、意に介さなかったのだ。 ベテラン警察官の推察が耳朶どころか、 […]

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~秘密の薬~  第二部 (72)

で言動ゆるぎなく、しかもかれの眼にいたっては、先刻から自信にみちた強い光を発していたのである。 「納得していただけないのは残念ですが…」わずかに頭をさげると、 「これでも忙しい身ですから、このへんで失礼します」との突き放 […]

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~秘密の薬~  第二部 (73)

それには唖然としたのだった、ただただ。だからではないが、かれの去りゆく背をながめるでもなく、目のうちの眼球だけがうつろに追っていたのである。そこには意図などなく、したがって、ただぼんやりとだった。

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~秘密の薬~  第二部 (74)

そしてようやく、であった。肩をおとしつつため息をゆっくりと吐きながら、おもむろに決めたのだ、仕方がない、今日のところは諦めるしかないと。”今日のところは“とおもってはみたものの、では別の手立てを…、なんどいまの精神状態で […]

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~秘密の薬~  第二部 (75)

それでも、涙はでなかった。「いつまでも冬がつづくはずない。春は必ずくる!」と、心が声をあげたからだった。叫ぶほどのおおきさではなかったが。その涙だが、実をいうとでなかったのではない、流さなかったのである。もし泣けば、完敗 […]

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~秘密の薬~  第二部 (76)

ところでじつは判ってはいたのだ、悔しいけれど負け惜しみだと。ただただ絶望の眉間のまんまで、だれもいない家へすごすご帰るなんて、できようはずなかった。いまのこんな気持ちのままでは、あまりに惨めすぎるではないか。

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~秘密の薬~  第二部 (77)

しかしながら、人間心理というやつは複雑だ。落胆が心を支配していても、だからといってあれほどの憤怒、それがいつのまにかどこかへ消えさる、はずなかった。どころか、おさまらない沸騰した怒り。「二度と来ないぞ!こんなとこ」とちい […]

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~秘密の薬~  第二部 (78)

この、玄関までのみじかい途次(みちすがら)だったが、つづけて呪いでもするかのように反論していたのだった。「泥酔するほどに、外で飲んだことなんてない!」と、実際にくちから漏らして。

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~秘密の薬~  第二部 (79)

いまだ混乱する頭ながらに、ことここに至ったいま、懇請の拒絶という現実をうけ容れざるをえず、そのうえでの対応をせねばならないと。そうでないと、夫の無念をはらすことなどできないからだ。そのためにはまったく別の、しかも納得をう […]

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~秘密の薬~  第二部 (80)

実像として、浮かんでこなかったのである。たしかにこの時点での平静度は低かった、からなのか?それともたんなる経験不足だからか。いずれにしろいまはまだ致しかたないことなのだが、霧のなかをさまよっているさながらの心境、でしかな […]

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~秘密の薬~  第二部 (81)

そんな失望と激憤にゆれる妙は、あてなく歩いていた。ひとりになり、やがて流れでたもの。それは夫の無念を斟酌した、悔し涙だった。念願を果たせなかった申しわけなさ、その慙愧の涙であった。

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~秘密の薬~  第二部 (82)

伝うそのほほを俯きかげんにしたまま、ただとぼとぼと歩いたのだ。 どれほどの時間が経過したであろうか。 そうするうちに、おおよそ二年まえに事故死した愛息・哲の学友だった人物、なぜかその存在をふと思い出したのである。

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~秘密の薬~  第二部 (83)

歩いたせいで血の巡りがよくなり、またほそい首筋を冷たい風が刺激したことで、それで脳が活性化したからかもしれない。 そういえばあの子はいま、社会派あるいは人権派と、まだ一部ではあったが、そう呼ばれはじめつつある弁護士となっ […]

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~秘密の薬~  第二部 (84)

それにしてもと、じぶんでも不思議におもった、刹那、なぜあの子のことを唐突に。 だが、起因ならばじつはあったのである。 ことあるごとに「あいつは優秀で、しかも信頼にたる男なんだ。もし、手に負えないことにでくわしたら、気軽に […]

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~秘密の薬~  第二部 (85)

それにたいし、「ああ、たしかにあの男の子ならおまえのいっていること、わかる気がする」と答えたのだった。 さらに、「いい友人こそ人生の宝なのよ。だから、誠意をもってつきあいなさい」とつづけていたことも。 これには、屈託ない […]

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~秘密の薬~  第二部 (86)

それらの際の、哲の一連の相貌が、つよく印象としてのこっていたのである。 母が子を、ことに息子を思いやる愛情が、半端であろうはずない。だから、大脳皮質に消え去らざる記憶としてのこっていたのだ。

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~秘密の薬~  第二部 (87)

また、自慢げの哲の眸には明朗さがくっきりと現れ、さらには煌めきまでもくわわっての。 それでそのとき妙は、友人を掛け値なしでほめる息子を、ぎゃくに好ましくおもったものだった。 そんな在りし日々の記憶が、出来(しゅったい)し […]

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~秘密の薬~  第二部 (88)

たしかに憤懣と挫折感、自責、そんなカオスのような精神状態ではあったが。とはいえそれでも、はやい段階で脳裏にうかんだのだった。 賢明な人だからか。

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~秘密の薬~  第二部 (89)

すぐさま気持ちを反転させると、押っ取り刀(大急ぎで駆けつける)で向かうべく、駅への道すがら、相談申込みの電話をかけんとスマフォを取りだしたのである。

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~秘密の薬~  第二部 (90)

=そういえば、なんて名前だったかしら。たしか、珍しい苗字だったけど…=おもいだすのに、すこし時間がかかった。=そう、そうだった彦原、彦原君よ。まちがいない=

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~秘密の薬~  第二部 (91)

ちなみにしる由のない電話番号だったが、急ぎSNSで調べたのである。 おもいだしたくはない、が消え去るはずのない記憶。三年まえのかの日リビングにて。 これ以上はないほどに絶望していた最愛の夫。その、血色がなくなった素の顔、 […]

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~秘密の薬~  第二部 (92)

法律事務所へむかうその端緒、おもったのだった。どれほどまでかはしる由もないが、それでも期待をもてそうだと。それで平常心にもどりはじめたのである。 それにしてもあの担当官、年齢からみてキャリア(かれが警視正であれば、まちが […]

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~秘密の薬~  第二部 (93)

課長と名乗ったが、事実だろうし、ならば若さゆえに経験不足そのもののはずで。テレビドラマなどでしるかぎりだが、現場自体をほとんどしらないであろう。 だからか、頭でっかちな先刻までの口振りとなったのだと妙。

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~秘密の薬~  第二部 (94)

課長とつげたが、なるほどウソではなさそうだ、とそうおもった瞬間だった、 「退職の日の事故、これって、偶然でしょうか?」こんな大事なこと、訴えるのを忘れてしまったことを。冷静さを失っていたからか、気力をなくしてしまったから […]

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~秘密の薬~  第二部 (95)

どちらであったとしても、しかし現況のじぶんには、もはやどうでもよかった。 そんな過去のことより、彦原君ならば、きっと寄り添ってくれるであろう、期待していいはず。いや正直いうと、そうであってほしい、だったが。 ともかくも、 […]

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~秘密の薬~  第二部 (96)

道すがら、 未知と未経験のさなか期待が刹那あらわれ、ところが人間とは所詮こんなもので次の瞬間、不安にかられたのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (97)

期待は、頼れそうな存在ができたことによる安心感に。 しかしそれが、全幅の信頼をもてるかまでは判らないていどで中途半端、だったからだろうか、先ほどの情景がぶり返したのである。

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~秘密の薬~  第二部 (99)

哲のいわく、人権派とのこと。しかし、自分がしっている”彦原君”は十数年以前の、世間の荒波にもまれるまえの、いわばまだ子どもでしかなかったわけで。

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~秘密の薬~  第二部 (100)

ねえ、人権派は事実なの?だけでなくさらに惑った。どこまで身を預けていいのか、期待に応えてくれるのか、それとも…。 やはり不安だ。

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~秘密の薬~  第二部 (101)

すると悔しさと怒りがよみがえり、そうしてこの火はまだまだ消えそうにないとしった。ある意味当然で、それほどの衝撃だったからだ。それにしても弁護士として会うのははじめてであり、いろんな意味で、たとえばいまのかれの状況もしるは […]

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~秘密の薬~  第二部 (102)

民事・刑事の分類にはじまる、彦原君の得意分野は?また案件を抱えすぎてるかも。でもって健康状態は?そうこうするうち、教えられたビルのまえまできたのである。ああ、都内にもまだこんなビル(エレベーターが設備されていない)がある […]

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~秘密の薬~  第二部 (103)

暗さのまじった複雑な表情で息をきらしながらノックをし、重いドアをあけた。丁番のきしむ音が不快感を、いやましつよくした。 ではあった。が、間仕切りのない狭い事務所から、還暦をとっくにすぎた口紅以外には化粧っ気のない女性と、 […]

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~秘密の薬~  第二部 (104)

その温みある雰囲気におかげでホッとし、すこしだったが和むことができたのである。

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~秘密の薬~  第二部 (105)

「お久しぶりです。お待ちしておりました」と、イスからたちあがったかれの左胸に輝く金色の弁護士バッジ。それに描かれているひまわりに似て、人懐っこい破顔のその口が、「どうぞお入りください」といったのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (106)

ねえ、人権派は事実なの?だけでなくさらに惑った。どこまで身を預けていいのか、期待に応えてくれるのか、それとも…。 やはり不安だ。 ところでお世辞にも、男前とはいいがたい腫れぼったい瞼にほそい目が、しかしながら懐かしくおも […]

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~秘密の薬~  第二部 (107)

=ああそういえば、哲の通夜と葬儀に列席してくれたのだ=そのときが最後だったことをおもいだしたのだった。それでまずは、臨席の礼を慇懃にのべたのである。

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~秘密の薬~  第二部 (108)

ねえ、人権派は事実なの?だけでなくさらに惑った。どこまで身を預けていいのか、期待に応えてくれるのか、それとも…。 やはり不安だ。 「早いもので、もう二年になります」と、学友だった彦原茂樹はすこしはにかみながら席をすすめた […]

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~秘密の薬~  第二部 (109)

すこし早口で。 ちなみにいましがただったので、妙の記憶に寸分のまちがいもなかった。担当官がのべたふたりの証言内容についてである。

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~秘密の薬~  第二部 (110)

それら必要な個所を、事務担当の女性は書きとっていた。 ところでいきなりとはなったが、電話をかけてから三十分いじょう経過したせいもあろうか、冷静さをとり戻しつつあったのだ。

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~秘密の薬~  第二部 (111)

それで、わかりやすくしかも順序だてることができたのである。ただし、怒りや悔しさはそのままであったが。

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~秘密の薬~  第二部 (112)

それで、わかりやすくしかも順序だてることができたのである。ただし、怒りや悔しさはそのままであったが。 でもっての肝心の本題。だったからこそ、はやる気持ちを抑えきれず、 「訴えを警察はとりあげてくれませんでした。それで相談 […]

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~秘密の薬~  第二部 (113)

つづけて、事故と断定した警察の所見にたいし、異議申し立てしたその内容をわかき弁護士に語ったのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (114)

だがそのときはさすがに眼はやや血走り、おもわず感情あらわにつよい口調となってしまった。警察への怒りが、じぶんが発した言葉につられて炎上したからだ。どうじに、肩をふるわせたのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (115)

そんな言動にたいし、弁護士はどうであったかというと、全身を耳とせんばかりに聞きながら、かのじょの哀訴のその奥にひそむ口惜しさに、すでに心を揺さぶられていたのである。

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~秘密の薬~  第二部 (116)

とそこへ事務をしていた女性が、「この子の母です。申しますに、なんどもお世話になったと先刻。それで、できる限りのことをさせていただくとそう」といいつつ、インスタントコーヒーをテーブルにおいた。

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~秘密の薬~  第二部 (117)

とそこへ事務をしていた女性が、「この子の母です。申しますに、なんどもお世話になったと先刻。それで、できる限りのことをさせていただくとそう」といいつつ、インスタントコーヒーをテーブルにおいた。 そして、自席へさりげなく戻っ […]

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~秘密の薬~  第二部 (118)

「わかりました。及ばずながら、引きうけさせていただきます」 それにしても、悲しみの再会となってしまった。

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~秘密の薬~  第二部 (119)

そんな、旧友の母の怒りや苦悶に同情しつつ、ではあったが、依頼人の憤慨を鎮めるべく、一言一句えらびながらつづけたのである。「奥様の主張には、ご家族ならではの当然の理があると。ですから、徹底的に調べさせていただきます。そのた […]

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~秘密の薬~  第二部 (120)

寡婦の、悲嘆や憤怒だけでなく、これからの不安にゆらいでいる眸を見すえつつ、かれはこうのべたのだった。」 それにしても、悲しみの再会となってしまった。

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~秘密の薬~  第二部 (121)

ところでこの弁護士には、へんな性癖があるようだ。言葉づかいがである。 そこは読みびとに、いずれ気づいていただけるとして、 さて人権派云々についてはいまはともかく、人情派とよばれるにふさわしいこの斟酌に、これならばと安心を […]

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~秘密の薬~  第二部 (122)

涙をハンカチで拭いながら、かすかな笑みを恥ずかしげの表情にまじえ、みせたのだった、ようやくというべきか。 先刻までは激情が先行したため伝えきれていなかった情報、だけではなく弁護士にある意味誘導されたことで、いままでに蓄積 […]

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~秘密の薬~  第二部 (123)

妻であるじぶんにもいえない社の極秘事をかかえていたことをまず。 「それは霞が関の、エリート官僚からの要請による新薬開発でした。ただ残念なことに、どんな新薬かまでは…」 と申し訳なさそうに瞑目し、そのあと首をかしげながら小 […]

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~秘密の薬~  第二部 (124)

ややあって額を指のはらで数回ノックしたのだが、それは意識的に、記憶をつかさどる前頭葉を刺激するためであった、ようにみえた。 そんな依頼人のようすから察しつつ、 「アメリカにある州立のモンクレア大学が“記憶”にかんし、興味 […]

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~秘密の薬~  第二部 (125)

さらに十数年前のことだったと縷々。その内容についてもつづけながら、すこしく冗長な説明になっているかなとはおもった。六法全書の、いわゆる評判のわるい悪文が身についたせいだろうか。ならばすこしく恥ずかしと、ちいさく自責した。

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~秘密の薬~  第二部 (126)

しかしながら意味はあるはずと、概説をおこたりはしなかったのである。まじめな実験だったと理解してもらいたかったからだ。

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~秘密の薬~  第二部 (127)

もうすこしですからと軽く頭をさげ、 「心理学の女性研究者が、被験者(陸軍の兵士51名)におねがいしたその試験の実体を、論文としてのこしています。人数がすくないのは否めませんが」 でもってようやく、伝えたかったその結論をの […]

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~秘密の薬~  第二部 (128)

「右手をつよく握ると記憶力が増し、ぎゃくに左手をこぶしにすると記憶がよみがえる、というような実理(体験でえた理論)データをもとにそう発表したのです」 だからよかったらやってみてくださいと、最後のほうの説明だけでもことが済 […]

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~秘密の薬~  第二部 (129)

もとより拒む理由などあろうはずもなく、実直にうなずくとすぐにそれを繰りかえしたのだった。 果たせるかな…、実際、記憶はよみがえったのである。

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~秘密の薬~  第二部 (130)

それにしても、妻にとっても相当に重要な記憶にちがいない。 しかしながら、六十五歳という年齢と三年という年月、それ以上に茫然をうみ自失をさせた最愛の夫の突如の死、さらには納得のいかない警察の対応のせいで、いうところの頭のな […]

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~秘密の薬~  第二部 (131)

おもわず、嬉しなみだで眸を潤ませた未亡人。 しかし感傷にふけられる状況にはない。かのじょは夫の面影を蘇らせつつも、ことばを噛みしめるようにして語りだしたのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (132)

おもわず、嬉しなみだで眸を潤ませた未亡人。 しかし感傷にふけられる状況にはない。かのじょは夫の面影を蘇らせつつも、ことばを噛みしめるようにして語りだしたのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (133)

「『恐ろしいことに巻きこまれてしまった。霞が関の中枢がこれほどの悪質な違法行為をしてもいいのか…』とそう憤慨し、頭を掻きむしったのです」

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~秘密の薬~  第二部 (134)

ただし会社人間だったがゆえに、肝心のことは頑なに沈黙をまもっていたとも。 「にもかかわらずそんな夫は、あげく、クルマに轢かれてしまった。しかもどういうわけか」それが退職の当夜にだったと云々。

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~秘密の薬~  第二部 (135)

帰宅が予定時刻を、おおきく過ぎてしまっていたのだ。普段なら、時間厳守がモットーのひとなのにと不審におもった。

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~秘密の薬~  第二部 (136)

それとほぼどうじに、不吉が頭をもたげたのだ。虫の知らせというやつか。いっぽうで、あの人にかぎってとの思いが、それをうち消しもした。

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~秘密の薬~  第二部 (137)

ともかくもと、夫のスマフォに時をおかずかけつづたのである。 しかしながら繋がることはなく、で心配がつのり不吉さが増大する妙となった。ではあったが、捜索願を出すべきか、それともまだ早いかで迷ってもいた。

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~秘密の薬~  第二部 (138)

ちなみに、スマフォがつながらなかったのは、事故時、ワイシャツのポケットに入れており、壊されていたからだった。

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~秘密の薬~  第二部 (139)

そんな迷いの明けがたであった、警察官の訪問により事故死をしったのは。 直後、ああ…と口から奇異なこえを漏らしながら、気を失ってしまったのである。

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~秘密の薬~  第二部 (140)

いうまでもないことだが、それほどに強烈な衝撃だったのだ。おそれていた最悪の事態! それをたおれこむ寸前、この制服警察官が間一髪でささえた。 かれは職務として、免許証記載の住所に同居者がおればそのひとに交通事故の事実をつた […]

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~秘密の薬~  第二部 (141)

むろん、最終的にはDNA鑑定によるのだが。 なぜなら、医師の監察下にての病死や自然死とはことなる異状死であるいじょう、検証は、死亡届や生命保険金などの手続きにもかかせないからである。

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~秘密の薬~  第二部 (142)

保険金詐欺などの犯罪がらみも後をたたない昨今、枚挙にいとまがないこともその理由のひとつだ。 でもって今回のばあい、じつは、頭部の損傷がひどかったのである。とりもなおさず、車に轢かれたことによった。だから、スマフォは壊れて […]

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~秘密の薬~  第二部 (143)

ところでこんなばあい、しょせんは当面の確認でしかなく、それでおおむね衣服やくつ、時計などの持ち物でなされることがおおい。

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~秘密の薬~  第二部 (144)

むろんのこと本人確定は、既述のとおりDNA鑑定のけっかしだいである。  ちなみに、赤木氏本人であることがのちに確認されたのだが。

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~秘密の薬~  第二部 (145)

ただ、保険金申請の手続きについては、いまのかのじょにとって重要ではなかった。ただし余事として、のちに弁護士がその手続きをすることとなる。だからこれでおく。

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~秘密の薬~  第二部 (146)

そんなことよりも、 制服警官による夫の死亡通知以降、いまにいたるまでそれが悪夢であればいいと、何度おもったことか。

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~秘密の薬~  第二部 (147)

しかし事実は変えようもなく、さらには人生最悪の日々も終焉することなく、綿々とつづいていたのである。

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~秘密の薬~  第二部 (148)

ただただ混乱のなか、警察署でおしえられるままに手続きをし、とりあえず遺体を引取ることがまずはできたのだった。

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~秘密の薬~  第二部 (149)

ただただ混乱のなか、警察署でおしえられるままに手続きをし、とりあえず遺体を引取ることがまずはできたのだった。 直後、年かさの担当官が個人の判断で、親切にも葬儀社に連絡してくれたのだ。 で、そこの社員に支えられ、喪主として […]

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~秘密の薬~  第二部 (150)

とはいえ、むろん地に足ついた状態ではなかった。 なるほど、親身になって、慰めてくれる友人たちも日替わりのようにやってきてはくれた。だがそれでも、救いとなることはなかった。

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~秘密の薬~  第二部 (151)

たしかに、未亡人となった身を憐れみ、駆けつけてくれたのはありがたいことだと。 しかしながら、やはり違っていたのだ。

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~秘密の薬~  第二部 (152)

せめて近しい伯父や叔母など、物心がついたころからの親族がいてくれれば違っていたのだろう。頼めばすくなくとも数日間だけでも、そばにいて慰めてくれるからだ。

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~秘密の薬~  第二部 (153)

だが、夫婦ともにそういう存在はいなかった。こんなとき身近での頼れるひとがいないというのは、残念なことである。不幸ですらある。

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~秘密の薬~  第二部 (154)

だからこそ支えあっていた夫婦の絆は、いっそう強固になったともいえるが。 いっぽうで、家族という視点からすると、寂しいかぎりの三人きりでしかなかった。

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~秘密の薬~  第二部 (155)

こういう事実、だからだけではないが当然のこと、愛息の死のときも精神の錯乱は(比較できないが)ひどく、また長くつづいたのである。

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~秘密の薬~  第二部 (156)

それでもこのときはまだ、救いはあった。創薬に忙しいさなかも、夫が支えきってくれたという真実。

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~秘密の薬~  第二部 (157)

とめどなくながれる涙に、夫はハンカチを手わたすと、悲しみと慈愛の眼差しでより添ってくれたのだ。うち震える肩には、さりげなく情愛の手が背をさすったのだった。さらにやさしい声が、哀惜や辛酸でみちた心をなぐさめてくれる日々であ […]

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~秘密の薬~  第二部 (158)

それが、なにものにも代えがたい存在以上だったのに…。たしかに、外ではほとんど飲まなくなったわけだが、いまにしておもえば母でもあった妻を、ありったけの存在で労わりたかったのだと。もっといえば、溢れんばかりの愛情表現でもあっ […]

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~秘密の薬~  第二部 (159)

ここで、誤解を招かないためにひとつ。こどもが一人きりではなく、複数人数であったとしても、亡くなった子への悲嘆が薄らぐものでは決してない。こどもはまだ他にもいるから、なんておもえるはずもない。

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~秘密の薬~  第二部 (160)

ここで、誤解を招かないためにひとつ。

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~秘密の薬~  第二部 (161)

悲嘆にくれても、ふたりがそれを喜ぶどころか悲しむだけで、また「わたしが駅に迎えにいっていれば」との悔いや怨嗟に身もだえをしてもなにも生まれない、それが現実だとも。

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~秘密の薬~  第二部 (162)

くわえて、通夜や葬儀の前後もおもい煩っていた。そのあと体調を崩し、ベッドで横になっていたときも。

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~秘密の薬~  第二部 (163)

このままではまえに進めるはずもない。不安や孤独・絶望、だけでなく過去に捕らわれたままでは、愚かで哀れな身でしかないなども、もちろん頭では…。

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~秘密の薬~  第二部 (164)

しかし 心はやはり支離滅裂の、いや暗黒の感情に支配されたじぶんであった。せめて支柱があれば、すこしは強くなれるだろうに。にもかかわらず肝心のこのとき、ああ、支え護ってくれるひとがいないのだ…そう、そばに誰も。

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~秘密の薬~  第二部 (165)

経験したひとにしかわからないであろう。混乱や恐怖、そして自棄。それこそここまでがリミット、をかんじられない闇黒でしかなかったのだから。

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~秘密の薬~  第二部 (166)

人生最悪の窮地。心の闇が深すぎて、その終点がみえてこないのだ。いくら泣き叫んでもこだまさえも帰ってこない、果てなき暗黒の宇宙さながらであった。

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