とここで、見たての内容を読者に知っていただこうとおもう。そのためには、矢野がだした指令などを、あきらかにする必要があろう。

 事のはじまりは一昨日の夜のことだった。群馬県の某いなか町のスナックでおきた、暴力団どうしによる殺人事件である。

 関西弁がうるさいとけんかをうった地元のチンピラに、「群馬のいなかモンがガタガタぬかすな!」と殴りかかり、あげく、関西弁のチンピラがナイフで刺殺されたのだ。

すぐさま、群馬県警が捜査に着手したのである。ただ、それが殺人事件だから、だけが理由ではなかった。

 事件の背景としてまず、小競りあいがなんどかあったとのこと。それというのも…、

兵庫山口組がシマをひろげるため、ヤクや武器の密売拠点にと、じぶんたちの根城から遠くはなれた首都圏に進出をはかったからだ。なかでも、比較的警察力のよわい群馬のいなかに目をつけ、出張ってきたのである。

ところで、このような縄張りあらしだが、近年、ほかの地域ではないとのこと。ほとんどの暴力団は暴対法に絞めつけられ、組員は減少、それらのせいで各自、弱体化しつつあり、縄張りを拡張するよゆうなどないのが現状だからだ。

 ちなみに八か月ほどまえのことだった。同期で友人の、暴力団対策課の警部補から、このあたりの大まかな情報はすでにもらっていたのだ、いずれ、じぶんたち警視庁管内に飛び火し、累がおよぶかもしれないから注意しておいたほうがいいとの。

この忠告により、その節は銃がからむ事件発生も予感してはいたのだが、さきほどの取調べで、銃の入手経路を裏サイトだとみてさぐりをいれたときの、東の不敵なわらいのおかげで、その節の予感をおもいだしたのである。

それがあって、兵庫山口組による銃の密売の可能性へと、想像をはせたのだ。

勢力図のぬりかえを、地元の暴力団がない指(そんな奴もすくなくない)をくわえて、ボーッとしているはずがないと。でもっての今回の事件だが、いわば起こるべくしておきたとの見方があり、それも、言うまでもないことだった。

 起こるべく…だからといって県警として、「やっぱり」で済まされるはずもない。どころか、即刻、警察庁が介入したこともあり、あげての、徹底した捜査を開始したのである。

当然だと、矢野はおもった。

 それでわかったこと。

兵庫山口組が関東進出をくわだてた理由だが、タッグをくんだ兵庫県警と大阪府警ににらまれているなか、そのせいで活動は、資金源確保もふくめ、むしろ自粛せざるをえない現況にあった。

ことに、ヤクと武器の密売には特別チームをくみ、警察として目を光らせていたのだ。

 だからといって、組として、手をこまねいているわけにもいかない。

もしもの抗争のときのためにも、団組織維持に、銃の確保こそがある意味最重要命題となりつづけているのだ。そういうべつの思惑もあり、中国マフィアと手をくんで、九州の離島経由で、密輸していたのである。

そこへこんかいの殺人事件だったわけだが。ひとが死んだとはいえ、県警にとってまさに、渡りに船となった。

被害者のカバンから、銃刀法違反にあたるナイフがでてきたからで、即日、出城としての事務所の家宅捜索がなされ、警察庁も上記の情報まではつかんだのだった。

そんなこんながあって、いろいろと推測をしたすえの、矢野がだした指令。

警察庁の友人から、可能なかぎりの情報を仕入れてくるように、であった。

とくに、刺殺されたチンピラもしくは出城事務所と東との関係について。たとえば遊ぶ金にこまっているチンピラならば、情報と引きかえだと札束をみせられれば、手もなくそれにのったのではないかと、矢野は想像したのである。

つまり銃の入手は、そいつらからと。

そのうえで、いちばんほしいのは、売買のやりとりだ。メールで交渉をしていたとして、そのときの文章を手にできれば、うごかぬ証拠となる。

むろん、東はメールを削除しているにちがいない。だが組員に、どこまでの危機管理能力があるかとなると、はなはだ怪しい。優秀といわれるエリート官僚でもチョンボをするくらいだ。まして…。ひとつくらい、削除しわすれがあったとしてもすこしも不思議はない。