それと並行しての憶測。やつはクルマを所持していないのではないか、だ。むろん、防犯カメラに撮られないように、所有のクルマはつかわなかった、も、じゅうぶんにありうることだが。

それはそれとして、上記の推測をおしすすめると、おなじ理由で、つぎに盗んだクルマもボロい軽トラだった可能性がたかい。

というのも、毎日のように自宅と河川敷とのあいだを往復していたはずだから、散歩中のだれかに目撃(たいがいは、同一時間、同一コースである)されたばあい、ナンバーを見られてもいいようにと。

盗難車ならば、用済みになっただんかいで処分しても、足がつかないからだ。犯人につながるもの、たとえば指紋をのこしていなければだが。

そこで矢野は、じぶんならばとかんがえた。

鉄道の駅にできるだけ近い、とある農家が所有する、数台のうちのいちばんボロい軽トラを盗むであろうと。駅にちかければ徒歩でその農家まで行けるし、だいいちたとえば休耕田を、買い手がつきやすい住宅地へと転用しやすいぶん、農家は地所を高く買ってもらえるし、で、経済的に潤っていたかもしれない。

さらに廃車寸前であれば、盗難届だが、めんどうがって、あとまわしにするかもしれないのだ。

あとは東だが、万が一にもオンボロ車を、所有者が見かけることのないよう、河川敷公園からは、あるていど離れている農家をねらったはずと。

範囲はかなりひろいが、見つけだすことで、希望的観測ではあるが、犯人の遺留品をあるいはゲットできるかもしれないと。

盗難車の捜索一切は、ベテランの和田にまかせた。