そうかんがえると、べつの光景がみえてきた。

東にとって、じつはドローンを盗むに必要不可欠で、とうぜんながら綿密な計画の一部だったとの、あくまでも想像ではあるが。しかもだ、「背が低いじぶんだからこそうってつけです」と、そう上申をしての。

やはりこの見たてのほうが現実的だ。ならば、“うけいれ”は、手前がってなウソとなる。

 それでもあえての見解。かりに手術をもし除隊後にうけたとしたばあい、だが、すべてが自費となる。しかもカルテがのこる。

いっぽう陸自内の、閉ざされた不可視の出来事であれば、闇のなかのままだ。だから東にすれば、隊員として施術されるにこしたことはなかったのである。

「“うけいれた”とは。言葉というのは便利だよね」知るかぎりにおいて、東はトップクラスの知能犯である。たまたま手術をうけた、などというご都合主義的いい分を、矢野は拒絶した。

ただ裁判ではおそらく、言い出しっぺがどちらかは、さほどに重要な事実にはならないとかんがえたのである。それどころかドローン盗難の経緯じたいは、本筋である爆殺事件の傍系でしかない些末な事実なのだと、裁判官たちはそうみるであろうとふんだのだった。

肝心なのは物証で、それが裁判ではものをいい、けっか、有罪は1000%まちがいないと、このときだけは検察官の立場になっていた。

でもって、先刻までの矢野であれば、極悪犯が取調べにそこそこ協力的になったとみて、ここらで休憩をとろうかとおもっていた。しかし方針をかえ、最後までつづけることにしたのである。

 気がきく藤浪がもってきてくれた茶を、矢野は東にすすめ、じぶんも飲みほした。そのかん手で、藤浪に待つようにと。乗ってきた矢野が、おとといの夜起きた事件のニュースをふと思いだし、じぶんたちの事件と関連があるかもと、ピンときたからだ。

 耳うちされた藤浪は、嬉々として退出したのである。

「さて、地元後援会事務所では、つけボクロと出っ歯で変装していたが、その往き帰りにおいて、変装したままのキミを、どの防犯カメラもとらえていなかった」

和田の推測を、ここで披露することにしたのである。

「なぜか?だが、事務所のちかくに児童公園があった。そこのトイレで変装をし、帰るにあたり素顔にもどった。捜査陣のだれも、キミの素顔をしらない。だから、キミにすれば平然と、カメラのまえを通りすぎることができたのだ」

つまり、変装している顔しか知らない捜査陣は、それを映像のなかから見つけだす徒労に、あけくれていたのである。