翌朝、矢野は藤浪に手まねきし、耳うちした。数分を要した。
だまってうなずいた藤浪は手配すべく、しっかりした足どりでデカ部屋をあとにした。その眸は凛として、手はずに自信ありと、闘志すらみなぎらせていた。
昼まえにもどってきた藤浪の表情は、輝いてみえた。人事をつくしたのだ、あとは天命をまつしかないのだからと。
「警部がおっしゃった省庁を三か所まわってきました。事件解決とこれいじょうの犠牲者をださせないために、すすんで協力すると異口同音でした」
あとは、《果報はねて待て》となった。
そして三時間がたち、藤浪の携帯がなった。首をながくしてまっていた国家公務員総合職試験合格者仲間からであった。
すぐさま藤浪は、眼くばせで同期からの連絡ですとの合図を、矢野におくった。
しかし、依頼した件だが、不調であった。
そのつぎのも、同様だった。警察庁などの情報から、犯人の住所をみつけることは、できなかったのである。
それから一時間後に最後の一件が。
「えっ!わかった!それはありがたい。で…」こうしてスマフォのスピーカーから、東の住所がながれたのである。
ついに、であった。朗報をうけとった矢野、まちがいない情報かを確認させるべく、「藍出」とだけ。
よばれた藍出はすぐさま、具体的指示をうけることなく、まずはその住所へむけ車を走らせたのである。
車中で、警察庁が管轄するデータのなかから藍出のスマフォに、矢野の手配により、東の最新顔写真が転送されてきたのだった。
あっ、ここで、矢野の名誉のために蛇足の加筆をするが、免許証の写真のほうをチョイスしたのは、防衛省からのものはおそらく数年まえのだろうと。陸自の特殊部隊に編入された瞬間から、写真の撮影はご法度となったにちがいない。そう、推測したのだ。
で矢野は、東の年齢と入隊から、18歳時において免許を取得し、でもって、つぎのつぎの免許の更新は二十四歳になった一昨年だろうと推し、免許証の写真のほうのが現況に近いはずとふんだのだった。
住所や名前を偽造したとしても、そのことで偽造自体が露見することは、まずない。
しかし、写真はそうはいかない。本人のでなければ、免許証の提示を警察官にいわれたとき、当然だが、ただではすまないことになる。
だから、顔写真は本人のであるはずと、そう矢野は断定したのである。
それできょうの朝一で、免許証の写真をとりよせる段取りをととのえておいたのだった。
藍出はまず、東が住むワンルームマンションを見つけると、一階の、おとこの部屋番号502の郵便受けのまえに立った。無記名だった。
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