そんな心裡を見透かしたかのように、「あとで弁護士がくるというのに、こちらの手の内はあかせないよ」とだけ言った。

ついで、追いうちをかけた。「だから、バカは使えない!と。誰でもそうおもう、だろ?たしかにな。削除しておけと、そいつはきつく指示されていたのに」これもまた、見てきたような、講釈師まがいの放言(無責任な発言)であった。

東がそう指示したとは、矢野はひとこともいっていないからだ。

「やっぱ、バカは使えない」おとこのようすを捉えつつ、矢野はくりかえした。証拠をつかんだと、そう印象づけるために。さらに、「そんなやつにかかわると、ずいぶんな目にあうからな!」と追加したのだ。

ちなみに、ライフル売買を証拠づけるメールそのものの存在も、いまのところは事実ではない。読者もご承知のとおりである。

つまり架空から、自供をひきだそうとしているのだ。

 とここで、攻めかたをいったん変えることにした。「そういえば、キミのお父さん、右翼の、くだらないバカ野郎の凶弾に倒れたんだったよな」でもっておおきく、同情の太息をついたのだった。

ついでの言の葉「ひとの命をなんだと思っているんだ!」。この怒声に、微塵もウソはなかった、刑事としてより、ひとりの人間として。

 この、正なる人語を耳にするなり、東はきつく瞑目し、歯を噛みしめた。父親の無念の死をおもうと、おもわず肩がふるえた。拍動も、尋常ではなくなっていたのである。

たしかに、肉親を殺害された同士だからこそ共有できる、悲憤であり悲鳴であった。

しかしながらデカを天職とする矢野は、怒髪をすぐにおさめ、本来にもどったのである。

もちろん、怒声に一ごう(毛筋ほど)のウソはなかった。それは事実だったが、やはりかれは、生まれついてのデカなのだ。

だから、揺さぶりをかけるとの意味においても、縦横無尽である。

「ところで、おまえみたいに頭の切れるやつは特にそうだろうが」と一転、「図体ばかりがデカく、知能はサル以下の組員なんか、心底軽蔑しているんだろ」東の肚ならと、代弁してみせたのだ。

「とはいうものの、銃を買うなどのばあい、やはり、助力は必要だろうしな。けど、いつ足をひっぱられるか、心配はつきないよな。役目をはたしたあとは、百害あって一利なしだからな、やつらは」