「話はかわるけど、今年に入ったくらいからかなあ、殺人とかの凶悪犯罪、統計によるとかやないよ、ただの実感や。けどそれにしても減ってきたなあと…。ふたりはどう思う?」
「なるほど。いわれてみれば、そうやな、たしかに。けど、もうちょっと早いうちからやったようにも思うで」
「そやな。レイプ事件なんかもふくめ、ニュースでも取りあげる回数、少ななったなあ、知らんけど」
と、この何気ない会話、2026年の暮れにおける一幕であった。
鉛色の空から三年ぶりとなる雪が、チラホラと舞い降りてきた大阪北部の、とある居酒屋で酔客がかわした、それこそアフターファイブの愚にもつかない四方山(よもやま)ばなしである。
ちなみにかれらがそう感じたのも当然で、日本で発生する凶悪犯罪がいちじるしく減少しているとの統計を、警察庁として年明け早々にも発表する段取りだったからだ。 ところでだが、他愛のないこんな世間ばなしが、まるで、この物語の端緒をひらいた恰好になろうとは…