ところがだった。

あろうことか。ここで刹那、連続殺人犯の、…ニヤリとほほがひらいたのである。あにはからんや(=意外にも)、というやつだ。

えっ、なぜ?たんに、開き直ったからなのか。

否。それは…、==なんだ、その程度か==だったからだ。警察はあまい!それでは攻めおとせないよ、であった。むしろ、おおいに安心したくらいだったのだ。

爆発物は、矢野が憶測したように、自宅で製造していた。べつの場所でではない。

ほんらいなら、絶体絶命、のはずだ。なぜなら爆薬という、言いのがれできない物証が、でてしまうから…。

なのに、頭がおかしくなったのか、この男、製造の痕跡などでるはずがない!と、ひそかに嗤ったのだ。

さらには、こう思った。

鑑識が証拠不充分だとしてその根拠を、ごていねいにも提供してくれるはずだと。警察の手による、一種の推定無罪の確定である。いやはや、願ってもないことだと、そう。

でもって、その理由。

まずは、ブルーシートを敷きつめたうえで、製造したからだ。

で、役目をはたしたブルーシートは、雨が降りしきる深夜。ちかくの公園にて、八方に重しをおき、ひろげたまま放置しておいた。雨が、物証を洗いながしてくれ、そのシートは、ホームレスがねぐらに持ちかえるだろうと。

よって、たたみやカーペットから、爆薬の成分を採取できるはずがない。しかしながら、そのうえで慎重を期したのだ。

爆発物の完成後、かたづけをするにあたり、原材料の微細が、ブルーシートから床におちることもありうるとかんがえ、処置しておいたのだった。

具体的には、まず、製造時にきていた衣服だが、コインランドリーで洗濯をした。自宅のをつかうと、洗濯機内部のどこかに痕跡がのこるかもしれないと危惧したのだ。

で、三度も徹底して掃除機をかけた。その掃除機だが、とっとと処分してしまっている。それもだ。テレビドラマであるように、ホームレスが廃品をもっていくことのないように、壊しておいたのだった。

さらに具象しよう。東の性格によるのだが、掃除機のホース内にも成分がのこっているとして、その口に蛇口を突っ込み、水道栓をひねった。とうぜん、ホース内は洗浄され、さらにモータ本体にも水がまわったのである。

この徹底ぶり。だから、物証が出てくるはずないと、そこまで細部においても、撤した計画をたてていたのである。

 で被疑者の口元が、ついゆるんでしまったのだった。

「おやおや、いま、あなたは笑いましたね」目にした以上、東の心裡を探ろうとしてみた。だが、なぜ笑ったのかが……?。じぶんたちは追いつめたはずなのにという、不安げな眉をしたのである。