不連続・連続・不連続な殺人事件 第一章(前編)

間違いなく不連続なのだが、それでも連続性を否定できない、しかし個々はやはり不連続な殺人事件なのである。そして、それら全てはすでに終了していた。 「ワーオー」と野性を目覚めさせ、魂を興奮(ゆさぶ)るほどのナイヤガラ大瀑布を […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第一章(後編)

ポタポタと雨の滴を落とす折りたたみ傘と濡れたコンビニのレジ袋は右手に、安物のショルダーバッグをば左手に。つまりそれらが彼女の両手をふさいでいたのである。ショルダーバッグを左肩から提げるかたちで左手をあけておれば、惨事を防 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第二章 矢野係の短い徒然(いとま)(前編)

矢野警部が係長を務めるデカ部屋は、一昨日の宵から昨日そして今日と、凶悪事件に煩(わずら)わされることのない、平穏な日を送っていた。 ただし、今日はまだ始まったばかりだが。 彼らがいるのは、大阪府警察本部庁舎だ。二期工事も […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第二章  矢野係の短い徒然(いとま)(後編)

ところで、話題にのぼった新井巡査。大阪府警察本部の鑑識課に配属されて二年目になる。 ただし正確な年齢は不詳ということで悪しからず。 「いつ見ても別嬪さんや」とは、あるベテラン。「女優の北川景子には及ぶべくもないが、そうは […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第三章  水浸しで窒息死した美女 (前編)

藍出が概説しだしたその事件は、2013年十月二十日の日曜日早朝に起きていた。(ここでは時系列に沿うことなく、後日談等も併せて記すこととなる) 死ぬには早すぎる、二十八歳の女性が窒息死したのだ。経験することなどごく稀な、特 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第三章  水浸しで窒息死した美女 (後編)

再帰宅の翌日、三者でじっくり話し合った。親たちは辛抱強く説得に説得を重ねた。 しかし伊沙子は納得しなかった。当然、荒行を受け入れるはずはなかった。ついには反抗的言動を残し、自室に引きこもってしまったのである。 決裂したそ […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第四章  和田警部補の孤軍奮闘(前編)

――なるほど、世の中には得体の知れん不可思議な連中もおるもんやな――ここまでは他人事だった。しかし、和田もひとの親である。「本気で信じてたかどうかまではわからんが、“悪魔祓い”と称して我が子を殺してしもたやなんて…、わし […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第四章  和田警部補の孤軍奮闘(後編)

捜査範囲が広がったなか、重たいだけの、徒労に倦(う)む時間のみが遅々とし、捜査員の心身には疲労感と虚脱感が深く刻まれたのだった。それでも時間は寸進し留まることはなかった。振り返れば、一年半前の弥生の夕、長野の訓示から捜査 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第五章  不連続な事件と関わる和田(前編)

可能な限りの情報を得た和田は、書類を見ながら事件等を頭の中で整理し始めた。 まずは、下半身をも曝け出し放置された死体。異状はしかし、それだけではなかった。先述の、若きキャリア警部全裸絞殺体事件のことだ。左腕に一か所の刺創 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第五章  不連続な事件と関わる和田(中編)

鬼瓦がフロントクラークに入魂の訊きこみをしていた時刻より遅れること四時間、所轄の、別の訊きこみ担当者二人。こちらも親子ほどの年齢格差の新旧コンビだった。が、息があっており、被害者たちを乗せたタクシー運転手の証言を重要とみ […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第五章  不連続な事件と関わる和田(後編)

和田とて、この最悪の結果は当然知っていた。それでも読後、悔しい吐息を洩らした。寸時、気分転換にもう一服し、星野が作成させた、別の事件の資料を読み始めたのである。 大阪市内福島区にある渡辺総合病院の病院長渡辺卓四十二歳が、 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第六章  溺死体に悩む藤浪警部補(前編)

検視担当官や機動捜査隊の意見、それに現場の情況などから事故か自殺で、他殺の線はごく些少として、初動捜査のあとを引き継いだ若い警部補(キャリア組であるゆえ)はベテラン刑事とともに、二者の取捨をするための情報収集とその判断を […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第六章  溺死体に悩む藤浪警部補(中編)

巡査部長が口火を切った。「いつからこちらでお勤めですか」台所よりキッチンと称した方が相応しいスペースに、テーブルを挟んで三人は座った。このテーブルで食事をし休憩をとるのだろう。家政婦が落ち着ける場所こそ最適と、ベテランが […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第六章  溺死体に悩む藤浪警部補(後編)

翌日昼すぎ、病院を訪れ義父である渡辺卓に再度尋ねたのだった。ただし、当夜の電話に関し病院長がウソをついた可能性のある件、それを問いただすに確証がない今は早計と、止めておくことにした。直人に決定的ダメージを与えるに、三分で […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第七章  走る空間にあって、犯罪を許さない矢野たち(前編)

和田が星野の執務室にいたころ、一台の車が大阪市内へ向かっていた。 運転しているのは矢野警部で、死別した妻の両親と、祥月命日の墓参りの帰り行程にいた。もっとも今は警部ではなく、プライベートな一個人の立場であったが。 「お疲 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第七章  走る空間にあって、犯罪を許さない矢野たち(中編)

仰向けに倒れた変死体だったが、行政解剖はされなかった。監察医制度のない府下だから設備的・人的に簡単ではない、が一つ目の理由。公費削減のため、が二つ目。しかしいちばんは、検視担当官が事故死と見立てたからだ。それは現場に争っ […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第七章  走る空間にあって、犯罪を許さない矢野たち(後編)

午後一時半過ぎ、矢野警部がデカ部屋に入ってきた、星野警視とともに。 じつは和田が退出した二時間後、星野の執務室に矢野が呼ばれ、ある指令を受けたのだった。府警本部に到着後すぐ部屋に来るようにとの、星野からのメールが入ってい […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第八章  難事件捜査に携わる矢野係(前編)

午後一時半過ぎ、矢野警部がデカ部屋に入ってきた、星野警視とともに。 じつは和田が退出した二時間後、星野の執務室に矢野が呼ばれ、ある指令を受けたのだった。府警本部に到着後すぐ部屋に来るようにとの、星野からのメールが入ってい […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第八章  難事件捜査に携わる矢野係(後編)

「みんな集まってくれ」矢野が、五人の部下に声をかけた。「欠員の補充が決まった。入ってきたまえ」矢野はせっかちな質で、「えっ」とのリアクションをする間を皆に与えなかった。ただ、彼らはそんなやりかたに慣れていた。 警部補へと […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第九章  不連続だけれど連続性のある各殺人事件等の捜査に矢野係着手(前編)

死体発見は2012年四月十五日日曜日午前十一時過ぎ。死亡推定時刻は前日午後十時から十一時。同日午後七時半過ぎから八時半過ぎに摂った食事の消化状況や死斑の固定化・死後硬直の弛緩具合・皮膚や粘膜の乾燥具合・体温低下等を総合的 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第九章  不連続だけれど連続性のある各殺人事件等の捜査に矢野係着手(後編)

前刑事部長だった長野は、なぜこんな簡単なことに気づかなかったのか、不思議だと暗に言いたいのである。眠っていた被害者と性交渉できたはずなく、さらにそのあとで金銭トラブルが発生し殺害した、だから犯人像を娼婦に絞った、というの […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十章  矢野係、本領発揮す(前編)

藤浪以下四人で、その建物をぐるり固めていた。逃亡させないためだ。夜も九時半をまわると少し寒く感じられた。空が晴れ渡っているせいかもしれない。無風でよかったと皆思った。そこは、古びたワンルームマンションの角部屋に当たる20 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十章  矢野係、本領発揮す(中編)

翌朝、藤川のパソコンを中心に皆が扇型を描くようにして犇(ひしめ)きあい椅子に座っていた。 拓子の実家から前夜持ち帰ったUSBメモリーに収録されていた秘密のブログを、藤浪の翻訳で聞き終えた直後の情景である。寝耳に水であり、 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十章  矢野係、本領発揮す(後編)

これほどに苦衷のみが満ちた心情にあっても、両親には決して告げなかった、経緯の一切を。完全に黙していたのは、俊子の死だけでも父母は打ちひしがれているのに、その心の傷に塩を刷り込み苦しみを増幅させるマネなど、とてもできなかっ […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十一章  それでも、捜査は次へ(前編)

星野の執務室にて。矢野警部は、「拓子が大阪市近郊で独り住まいをしたのは、復讐前後の心身の異状を、両親に覚られないためだったのではないでしょうか。そして復讐のあとも両親と同居しなかったのは、大罪に穢(けが)れた身心を四六時 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十一章  それでも、捜査は次へ(後編)

矢野が退出してから四時間、結果を待つ間、星野はあることに思考を巡らせていた。男はどこで拓子の存在を知るに至ったかということにだ。まさか、アメリカではあるまい。 そしてそれ以上に、男が誰かを仮定できないものか考えてみたので […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十二章  天網恢恢(てんもうかいかい)(前編)

誰とはなしに、いつもの居酒屋へ皆の重い、無言の足が向かった。やはりというべきか、暗い顔を突きあわせつつの苦い酒が、各人の終電まで続いたのである。 そして、翌日のデカ部屋。 皆がいまだ歯噛みするなか、藤浪だけが自分が担当し […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十二章  天網恢恢(てんもうかいかい)(中編)

「警部がおっしゃっていた品々、脱衣かごにも洗濯物用の入れ物にも…」西岡も期待したが写っていなかった。さらに悪い事態、洗濯機内部の撮影をしていなかったのだ。密室における死体ということで、鑑識が、殺人ではなく自殺か事故死との […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十二章  天網恢恢(てんもうかいかい)(後編)

――やがては妻を殺すつもりやった医者――このことに、岡田は今も拘泥(こうでい)している。人の命を救うべき、その意味で聖職の名を冠する者が、尊い使命を放擲(ほうてき)しただけでなく「命を奪い続けるなんてとんでもない!」と怒 […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十三章  秋の陽はつるべ落とし(前編)

いつもの居酒屋に、矢野係の面々と星野管理官が揃った。星野が慰労の会を設けてくれたのだ。むろん、一部を除きほぼ彼の自腹。だが領収書を受け取ってはいない。 「おかげで府警の面目が立ったと本部長も…。だが、些事はこの際おいてお […]

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不連続・連続・不連続な殺人事件 第十三章  秋の陽はつるべ落とし(後編)

矢野の家に、藍出と藤浪が泊まることになった。酔ったからではない。もっと、矢野と話をしたかったからだ。特に藍出は今宵も、婚約者より警部を選んだことになる。 「今回の一連の事件ですが、何と言えばいいんでしょう」矢野の愛妻が用 […]

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