さすがに、頭のうえに設置されたエアコンにまでは、知能がおよばなかったということだ。可視できない塵埃にまでは、頭がまわらなかったのである。

もとより東にすれば、エアコンが室内の空気を吸ったあと、熱交換し吹きだす、くらいのことは子供のときからしっていた。だから、ぎゃくに当たりまえすぎて、見落としたにすぎない。

テレビは、リモコンの電源ボタンオンで映像をうつしだす。冷蔵庫はつねに、なかの物を冷やしてくれている。それが機能しないとき、初めてなぜ?となる。それまでは当たりまえすぎて、気にもとめない。

機器が稼働するのはふつうのことであり、慣れとは、そんなものなのだ。これが結局、落とし穴になってしまったのである。

重ねていう。健康のありがたみは、病気になって痛感するものである。おなじように、稼働している機器には普段ならありがたみを感じることなく、よって故障しないかぎり、その構造などは、見過ごすどころか、気にもかけないままとなる。

さらにだが、エアコンの機能や仕様にまでは気がいかなかった理由なら、まだあった。

東が、いくら訓練をうけ自信があったとしても、取っくむ相手は爆薬(あえて分類すれば、黒色火薬の改良型。ただし製造上の安全性を考慮し、材料はすべて固体)であり、時限装置や起爆装置をふくむ三種類の爆破機器だった。その製造工程において、まちがえば、復讐するまえに、じぶんが爆死するはめとなる。

だから完成するまでは、緊張の連続につぐ連続だった。見えない埃にまで、神経がおよばなかったとしても、すこしも不思議はないのだ。

もはや、視線が宙をおよぎ、定まらなくなっていた。

嗚呼と、深いため息が漏れた。世界最高水準の科学捜査にかかれば、完璧な物証が確保されるにちがいないと。

せいで、完膚なきまでに、打ちのめされたのである。

完敗だ、と心がつぶやいた。

そういえば、完全黙秘するつもりだったのに、このデカに、まんまと乗せられてしまったとおもいしった。

それにしても、ほんの小さなアリの一穴が、八年もかけた完全犯罪を、はらわたが煮えくりかえるが、崩し去ってしまったのである。

敗北と脱力感で、心がズタズタになった東であった。