いっぽう、どさくさにまぎれて、認めさせようとの目論見・策略だったが、かんたんに見破られてしまった。そこで矢野は、第二案でもってすすめることにしたのである。

「これは失言。動機から、こっちが憶測でそう睨んで、それで…。…だから、まことに申しわけない」と、深々と頭をさげたのだった。

このようにして、第二案はすでにはじまっていたのである。「では、本題にはいります。さて、事件の間隔が、最大四十日以上あいた理由…」

「まだそんなことを!」

「まあまあ、ここは怒らずに聞いてほしいな。キミがみとめた爆殺事件についての質問だから」いまは、なんとしても供述をとらねばならないのだ。ひっかける企たくらみなら、チャンスはまだあるだろうと。

「爆殺事件の一回目は年末だった。で、ドローンと時限爆弾によるふたつの爆殺は、二月にはいってだいぶたってからだった。そのかん四十日くらい、だよね。そこで訊きたい。どうして、こんなに時間をかけたのかと?」

これも、検察が知りたがるギモンのひとつとみていた。また、捜査にたずさわる立場としても、おざなりにはできない事案だった。とはいっても、判決におおきな影響をおよぼすほどではないだろうとも。

 で、だれもなにも発しない、森閑たる空間。しわぶき(咳)のひとつだにない取調べ室。

そのかんの藍出、じぶんの拍動音がきこえた気がした。連続殺人犯がなにを語るのか、ただそのことに神経を研ぎすましていたからなのか。だが静寂は、そう長くはなかった。

ややあって東、仕方なさげに口をひらいた。「時限装置をつくったり、標的だった両院の元議長の生活習慣調査をしたりで、いろいろと準備もあった。しかしそのことよりも、爆破」…“爆殺”とは、それを冒しておきながら、さすがに使うのをためらったのである。

つづけた。「事件は、年末に起きた一度っきりで、それ以降、期間があいたので、次はないのではないかとの希望的観測がもたらす、警察内部の気のゆるみ、それが生じるのをまっていた。だが本心をいうとさっさと決行し、早く片をつけたかったけどな」

 じじつ、警察組織は巨大だからこそひとを当てにしがちで、そのぶん、よけいに緊張感を継続することは困難となり、かなりの警察官、とくに警備にあたっていた担当官は、どこか、気が抜けていることも少なくなかった。