ところで連続殺人犯は、いままでのを見聞きしつつも、さも興味なさげに、こんどは右上へ目玉をうごかし、ついで顔を右へそむけたのであった。

ちなみに、なにげにみえるこの仕草こそ、思考をつかさどる左脳を、フル回転させた証左だった。矢野の意図やこんごの展開を必死で思考・想定していた、そのあらわれである。

ということは、降伏するつもりはないとなる。

矢野はそれらを見知ると、「いままで言わなかったのは、イライラさせたかったからだよ。さてと、こんなとき助けてくれる友がいないって、ほんと、つらいよな」さらに焦らした。

 すると、東のイスが、ギッと音をたてたのだ。たしかに、力になってくれるような親友など、ひとりとしていないし、そこを衝かれるのは、人生を否定されたようで、正直むかっ腹がたったからだ。

しかし表情は、それでも、どうにか冷静をよそおってはいる。

表面、たしかに、藤浪たちにはそう見えた。

が、微かにうごいた平穏ならざる東の眉をみ、経験からここを潮時と、「兵庫山口組とのメール、ライフル売買の。チンピラが残してたのを…見つけたんだよ」こんどは逆に、ズバリ核心をついたのだ、むろん、物証を示せないハッタリだったが。

いっぽう、対処に迷っている顔つきの凶悪犯、「ならば、その証拠とやらを見せてみろよ」と、啖呵をきるか、ようすを見るかをだ。しかしすんでのところで、啖呵を、気道の奥へとおしもどしたのだった。

もしも証拠を提示され、みてしまったが最後、完全犯罪をなし遂げたはずの東浩蔵は再起不能、まさに最期となる。

かれも人の子、じつのところ、それを恐れたのだ。