投稿者: jyuri (page 15 of 40)

~秘密の薬~  第二部 (26)

ところで、轢過(車両がひとを轢くこと)の状況はどうであったか。
泥酔状態の男性(赤木敏夫と免許証から判明)が、歩道を千鳥足で歩いていた、と警察の調書に。加害者と目撃者の供述によったと、後日。

~秘密の薬~  第二部 (25)

送りだす祝いの会がお開きとなったその帰宅途中、車にはねられて、帰らぬ人となったのである。
それは、二月末日の夜半のこと。凍てつくような寒い夜がつづき、そのせいで、路面には薄氷がはっていたもようである。そういえば現場となったここ東京都八王子市は、よく積雪することでも有名だ。

~秘密の薬~  第二部 (24)


嬉しさに、身も心も浸りたかったからだ。
それには無言だったが、顔一面にひろがった笑顔がそのこたえとなっていた。
十歳は若やいだ妻が跳びあがらんばかりに喜んだ、のは言うまでもない。
やがての二ヶ月後。赤木取締役は、慕われている部下たちに惜しまれつつ退社したのだった。“たつ鳥あとを濁さず”のままに。
そして青天の霹靂は、まさにその夜おこった。

~秘密の薬~  第二部 (23)

  「社長の命でとりくんでいた仕事も、二月末かおそくとも年度末には完遂する。これを機に、まあ潮時だし、退社することにしたよ。これで、妙とゆっくりできるね」

  こう、こともなげに垂れめがちの眼が微笑みつつ、厚めのくちびるが語った。

  妻にする、三年ぶりのサプライズであった。長年支えてくれた愛しいひとの笑顔をただ見たかった。

~秘密の薬~  第二部 (22)

  しかしながらなんの因果か、最悪としかいいようのない青天の霹靂が…。

  このおしどり夫婦にまさかの、それはそれは、とんでもない事態がおきてしまったのである。

  その、二ヶ月ほどまえだったのだが、「あけましておめでとう」との年始のあいさつを交わしたあと、唐突に告げていたのだ。

~秘密の薬~  第二部 (21)

しかしながらなんの因果か、最悪としかいいようのない青天の霹靂が…。

このおしどり夫婦にまさかの、それはそれは、とんでもない事態がおきてしまったのである。

その、二ヶ月ほどまえだったのだが、「あけましておめでとう」との年始のあいさつを交わしたあと、唐突に告げていたのだ。

~秘密の薬~  第二部 (20)

光陰矢のごとしという。たしかにそのとおりで、
夫が、暗い眉目で終始したあの日から、はやくも三年と数日が過ぎていた。

その間は、赤木夫妻に特筆すべきようなことは何も起きなかった。なぜなら例の件については、沈黙が続けられたままだったからだ。

~秘密の薬~  第二部 (19)

ところで、このあたりの裏事情をもし知ったひとがいたとしたならば、長息をもらしたであろう。こんなにも血のにじむが如き部長の想いにたいして、あまりに気の毒で大変そのものだと。

 やがてわかる、どれほどに血まみれていたかという“真実”。むろんそれを、妻がさきに知ることとなるのだ。

 暗黒の真実、そしてその内実。超がつく国家機密にもかかわらず、だ。では、それをなぜ知りえたのか?…

 だが、いまは先へと進ませてもらう。

~秘密の薬~  第二部 (18)

  で、じつはこのとき、最悪の事態がそう、のどまで出かけたのだった。

 しかし言えなかった。愛する妻に心配をかけたくなかった、がいのいちばんの理由。

 ついで、どのみちプロジェクトを完成させるしかないのだ、ならば自分が長となってやり遂げるほうが、よりましな新薬を創れるはずと。

 出世第一主義の部下にまかせた場合…、急ぐあまり、また経費軽減も考慮し、粗悪な薬をつくってしまうかもしれない。

~秘密の薬~  第二部 (17)

 じぶんは用済みとして、ヘタをすれば、殺されるかもしれない。ある意味、国家存立にかかわってくる極秘中の極秘をしってしまったのだから。

 まさかとは思うが…。それでもかれは、最悪を想定する、慎重居士でもあった。

 つづけての思索は、以下だった。

=すくなくとも、官僚のトップ六人が社会的に葬りさられることを、かれらが容認するなど、ありえない!=

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