月別: 2023年11月

~秘密の薬~  第二部 (157)

とめどなくながれる涙に、夫はハンカチを手わたすと、悲しみと慈愛の眼差しでより添ってくれたのだ。うち震える肩には、さりげなく情愛の手が背をさすったのだった。さらにやさしい声が、哀惜や辛酸でみちた心をなぐさめてくれる日々であった。

~秘密の薬~  第二部 (156)

それでもこのときはまだ、救いはあった。創薬に忙しいさなかも、夫が支えきってくれたという真実。

~秘密の薬~  第二部 (155)

こういう事実、だからだけではないが当然のこと、愛息の死のときも精神の錯乱は(比較できないが)ひどく、また長くつづいたのである。

~秘密の薬~  第二部 (154)

だからこそ支えあっていた夫婦の絆は、いっそう強固になったともいえるが。 いっぽうで、家族という視点からすると、寂しいかぎりの三人きりでしかなかった。

~秘密の薬~  第二部 (153)

だが、夫婦ともにそういう存在はいなかった。こんなとき身近での頼れるひとがいないというのは、残念なことである。不幸ですらある。