月別: 2021年12月

~秘密の薬~  第二部 (64)

ところがだった、
現場の判断を尊重しそのままを採用する、「それがわが署の方針です」とこのときも断言したのだ。つづけて、あろうことか面会すらも拒絶したのである。
現場と、その報告をうけた上層部、署内で見解が食いちがえば混乱を生じさせるだけだ、といいたかったのだろう。

~秘密の薬~  第二部 (63)

ついでいった。隣家の幼児によるけたたましい泣き声をほぼ毎日耳にしているひとがいて、「これって虐待でしょう?」との通報があればこれをうけつける、なども警察の役目のはずだと。
市民からの、犯罪の可能性をうたがう声が届いたら、調べるのも警察の仕事だと、当然を発したのである。

~秘密の薬~  第二部 (62)

いっぽうの担当官は、言葉つきこそ柔和ではあった。
がしかし、ベテランたちの言動にすっかり得心してしまっており、被害者の妻に耳をかたむけるなどは、はなからするつもりなどなく、したがってまさに耳栓をしている状態だったのである。
「もう結構です!」とは被害者の妻。ついに口角泡をとばしたのだった。「あなたでは話しにならない!いちばんの決定権があるのは署長さんなんでしょう」
そのひとに聞いてもらうから「そこへ案内しなさい!これは善良な市民としての権利です」と、睨みつけつつ発したのだった。

~秘密の薬~  第二部 (61)

いっぽうで、どうしてわかってくれないの…、信用してくれないの…。これが被害者の妻の、真情そのものであった。
ちなみに“若造”と宣(のたま)ったこの猛々しい表現。
ところで普段のかのじょには、まったくもって似つかわしくない。だがそれは、ぶりかえした憤怒のせいでもあった。

~秘密の薬~  第二部 (60)

これには「なるほど」「さすが」と、全員が納得や賞賛をしたのである。
赤木妙の懇願が受けいれられなかったのは、元刑事のこの発言にもよったのだった。
それにしても若さは、忖度とは無縁なのか。斟酌においてはなおさらか。
「深酒が原因の事故なんて、世間体がわるいですからねえ。あなたの立場としては、よくわかりますよ。ですが」といったあと、
すこし迷いつつも、「これくらいはわかってほしいのですがね…」で一息つき、それからおむむろに口をあけた。眼光はこのとき、鋭くなった。
「映像はウソをつかないのですよ、ちがいますか」こう、きっぱりいい切ったのである。
ところでいまの言動をもふくめ、=この若造が!ただマニュアルに従っているだけのくせに!=厳しくなった眼光に負けまいと、かのじょは心底で息巻いたのだった。