運転者(自動運転車だから)はゼロミリグラムだったのにたいし、「ご主人は約200ミリグラムでした」とここは客観的数字で。そして、通常なら泥酔状態となる量だと追加したのである。
運転者(自動運転車だから)はゼロミリグラムだったのにたいし、「ご主人は約200ミリグラムでした」とここは客観的数字で。そして、通常なら泥酔状態となる量だと追加したのである。
まあそれはともかくとして、かれは杓子定規的に以下、「泥酔の証拠として、血中アルコール濃度の数値を比較すればわかりますから」との主旨を、慇懃無礼にのべたのだった。どうしてわからないのかと、それを訝りながら。
こちらは充分に調べたのだからと、腹のなかはそうであった。
まさかの無体を吐く、かれにすれば鬼クレイマー、でしかなかったのだろう。
しかしだとしたら、なにぶん経験の浅い、だからこそよけいな先入観にとらわれた仕儀のひとだ、そういわれても仕方があるまい。
ちなみに、赤木妙をよく知るひとならば、クレイマーなどとは真逆の女性だと断言したであろう。
ひとは、千差万別の存在だ。だから身勝手ないい分を吐いたり、また感情的な言動をするひとも少なくない。
そんな輩(やから)が署にもたびたびやって来ると、実体験からおもっているし、口にもした。
こういうような経験知のなかに棲むかれは、被害者家族がなしている真剣な訴え、それにもかかわらず、「再度の捜査を」を、難癖と受けとったのだ。
くわえて「年齢のわりには、足腰ともに衰えしらずを自慢にしていたほどです。だから、転倒なんて」と、そう懸命に訴えたのだった。
しかしながら担当した警察官は、検証において「たとえ第三者がみたとしても、非の打ちどころなどないといいますよ」と、突っぱねたのである。
三十代と比較的わかい担当者だったせいか、かれの人格によったのか、いずれにしろ血のかよわない応対であった。
「殺人ですよ、殺人!」と、一瞬だったが目の色までもかえつつ発したのである。そのあとすぐにだった、冷静さを示そうとふだんの眉に戻して、 「百歩譲ってかりにそうだったとしましょう。ところで、現場で聴取していた警察官はベテランでした。そんなかれらならば、なんらかの違和をそのさい感じとったにちがいありません!」
で、さらに、「それとドライブレコーダーの映像。こっちは数回、ふたりで確認しました。ですが、おかしな個所など一切ありませんでした」
途中からは、吐き捨てるようにいった。もはや、うんざりという顔になって。
「殺人ですよ、殺人!」と、一瞬だったが目の色までもかえつつ発したのである。そのあとすぐにだった、冷静さを示そうとふだんの眉に戻して、 「百歩譲ってかりにそうだったとしましょう。ところで、現場で聴取していた警察官はベテランでした。そんなかれらならば、なんらかの違和をそのさい感じとったにちがいありません!」
“韓信の股くぐり”この諺をしってか知らずか、屈辱に耐えることをえらんだのだ。
ところがだった。拒絶表現として故意に、担当官は眼をそらしたのである。そしてひとつおおきく息をついたのだ、呆れて物がいえないとの意で。そうして徐(おもむろ)に、「あなたのはどちらも、もはや妄想の域です。いいですか、たとえばの話し、あなたのいうようにグルだったとしましょう。だとしたらどうなります。それこそ事故ではなく」
仕事だからしかたがないと、説得するような口調でだった、ここまでは。
だが直後、口吻がかわった。
再捜査こそ本願なのだからと形振りかまわず、まさかの宗旨替え、プライドはないのかとさげすまれようとも、目的のためならばと方策を度外視することにしたのである。
“韓信の股くぐり”この諺をしってか知らずか、屈辱に耐えることをえらんだのだ。
そのうえで畳みかけるべく、いやそうではなく真逆の、じぶんでも意外だとおもいつつも、今度は態度を一変させたのだった、あろうことか。
「だからどうか、調べなおしてください!お願いします」
イスから立ちあがると土下座までではなかったが、膝につくほどに頭をさげたのだ。そう、まさしく豹変であった。
藁にもすがるおもいで、このあと顔をのぞきこむようにし、手をあわせ拝顔すらしたのだ。
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