初日、さすがに眠くなったので時計をみると、午後十時半をすぎていた。どれだけ読んだのかとその端をみると、七十九ページ目だった。一日に百ページをよむのは大変だろうと覚悟していたが、このぶんだと、それほどでもなさそうだと。

きょうは出だしがおそかったが、明日からは、ラジオ体操のあと、すぐに取りかかればいいとかんがえながら横になり、ほどなく眠りについた。

 こうして順調によみ進んだ。その間、学校のプールでクラスメイトから、「この頃つきあいがわるい」と非難されたので、正直にじじつを告げた。八月下旬には遊べるようになることもついでにくわえた。

みな、同情しながらも、予測したとおり、半分あきれ顔であった。

いたしかたないが、友だちの顰蹙ひんしゅくにも似たちいさな不興は一時のものと、あきらめるしかなかった。

その甲斐もあって、当初の計算どおりお盆まえに完読できたのである。じぶんを褒めてやりたくなるくらいうれしかった。満足感にひたりながら、二階でひとりはしゃいだのだった。達成感に酔ったのである。

しかし…、読破したことでえた知識や秀吉にたいする納得にまじり、頭をもたげだした疑問が、それらと錯綜しはじめ、ついには疑義が頭脳を占拠してしまった。

一階におりながら、_お父んが、秀吉をすきな理由はわかった。ボクもますますすきになった、けど……_につづく根源的な疑惑。

血塗られてる、か?だ、秀吉のどこが?

ボクは夕食をつくっている母の背中にむけ、まずは、よみ終えたことを高らかに宣言した。

「やればできる子やねえ…」背中ごしの、みじかすぎる褒めことばだった。「それで、どやった?」機先を制したわけではないのだろうが、いきなり感想をもとめてきたのである。

いくらなんでも、それでは約束がちがうとばかりに問いを無視し、ききたかったことを性急にぶつけることにした。