…敬愛する読者の皆様、とりわけ、単なるミステリーファンにとどまらず、
我こそは名探偵なりと自負するご貴殿へ、生意気にも挑戦状をあえて認(したた)めつつ
ときは2095年の夏そして中秋.つまりは二十一世紀の末、ばしょはわれらが現代日本。
この時間・空間を起点に、太陽系外のむこうへ遠くさらに遠く、はるか約二光年(約三十万km×六十秒×六十分×二十四時間×三百六十五日×2年)さきの銀河へととび、さらには、地球歴では2099年二月二十六日へと舞台は転移。さいごに、起点の2095年からみて百五十年前の地球へ時空は変転し、そこで言語道断の、凄惨なクライマックスを……。
歴史をかえるという、空前絶後のために。
粗々(あらあら)、そんなものがたりである。
本年2095年のノーベル物理学賞最有力のわかき天才宇宙物理学者が、非表明をふくむ十五カ国(ふるい資料で恐縮だが、2015年現在、まだ九カ国だった)以上が所有するすべての核兵器(悪魔がつくった地獄からの贈りものだ!にもかかわらず、保有国はおろかにも、世界をなんども、いや十数回も破壊できる量を、当然のこと戦略的配備もふくめて貯蔵しているのだ。
ちなみにかれらの発表をしんじたとして、米・ロ両国だけでも核弾頭数、各7200発、7500発、らしい)をすべて、この地上から完全に消滅させるために、単身、身を砕くおもいで破天荒(=過去にいちどもなかった偉業)な計画をたて、それを実行にうつそうと、まさに骨を粉にする。
その結果、必要悪だとしつつかれは、甚大にすぎる犠牲を、150年まえの歴史に負わせることとなる……。
さて、題名をふくめ、乏しくみえるこれだけの情報ではあるが、名探偵たるあなたならばこそ、わかき天才がこれからなにをしでかすのかを、はやくも見抜かれた、のではないだろうか?
また、名探偵ではないとしても、読者諸氏が推理小説ファンであるならばきっと、あれこれ推理をめぐらしていることと、勝手ながら推察いたしております。
そこで老婆心とおもいつつ、ヒントをいくつか。
まずは題名もその数にいれていただくとし、でもって、2095年の日本、つづいての舞台は、銀河、こんどは、百五十年前の地球。さいごに、歴史転換のための凄惨なクライマックス。
主人公はというと、天才宇宙物理学者。非表明をふくむ十五カ国以上が所有するすべての核兵器の完全廃棄。破天荒な計画。くわえての、粉骨砕身という表現は文字どおりであり、さらに150年まえの歴史が、甚大にすぎる犠牲を負うことに云々、等々。
ウッソー!これではヒントのたれ流しではないか。簡単すぎて興味をそがれたよと、名探偵たるご貴殿は憤慨されているやもしれない。
そんなこんなで、“謎は、すぐに解けたよワトスン君”とばかりに、あくびをかみ殺しながら「歯応えなし」と、のたまっているかもしれない。
それを承知であえていわせていただく、名探偵の想像を凌駕しているであろう、突飛な計画だと。
そういい切ってしまったが、しょせんは高慢な勘ちがいでしかなく、さすが、“快刀乱麻を断つみごとさよ”と名探偵を賞賛するいっぽうで、挑戦状のてまえ、執筆者として浅学非才の身を恥いるハメになるかもしれない。
そのときには存分なる嘲笑を、まるでスコールのように浴びせかけられよ。
しかしそうなったばあいでも、負け惜しみではないが、《好事、魔多し》ということもある。
さいごまで読みすすんだとき、存外、どんでん返しという陥穽(かんせい)(=落とし穴)におちているかもしれないから、足元にはくれぐれも。
いずれにしろ、熟慮はこのプロローグまで。本篇にいっぽ足を踏みいれた時点で、すでに答えあわせがはじまっていますので悪しからず。
あとは、名探偵のご健闘を祈るのみ。
…で、若き天才宇宙物理学者が決断した、天荒を破ったに似た前代未聞(とはこの場合、地球規模の人為的ビッグバンにて候。でもってビッグバンとは、約138億年まえにおきたとする、大宇宙誕生の謎を解きあかすにおいて、有力な説である。ちなみに、この地球規模の人為的ビッグバンはおまけのヒントだ)を、はたして完遂できたであろうか。
さらに、未曾有な暴挙の結果、かれを待ちうけていたのは、どんな運命か?
ハッピーエンドとなるのか、できればそれが望ましいが。
ともかくも、あなたがくだした推理が、巻末にいたった時点においてもなお、合致していればなによりのこと。
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