現在、ひとえに矢野班がたずさわる連続殺人事件を解決すべく、警部の頭のなかはさらにめまぐるしい。

ライフル銃を手にいれたい復讐者がひとり、と矢野。

いつものように、犯人になったつもりの推測をしたのである。以下がそれだ。

必要だからといって、なんのツテもなく銃を密輸するには困難がおおすぎる。ならば裏サイトはどうか。なるほど使える。が、事件のおおきさから警察は、威信にかけてもそのサイトをみつけださずにはおかない。となると、裏サイト使用の危険度たるや、致死的である。

凶器のライフルを買ったのは、じぶん東浩造だと自白するに、ひとしいではないか。

取捨選択のけっか、安心できるのは工作員として、ある意味その手の一員だった闇の組織だと。

暴力団対策法施行いらい、やつらはじぶんたち暴力団を、駆逐しかねない存在としての警察力、それをおそれている。だからこそ眼をつけられないよう、つねに細心の注意をはらいつつ、闇で活動しているにちがいない。

ということはつまり、そいつらに乗っかっても、だれが銃を購入したかは闇のままで、やがて情報は消えさるはずだ、と東。

闇社会の秘密厳守は掟であり、いわば、国家における破ってはいけない法律にあたるのだ。だから万が一、掟が崩壊すれば、それはじぶんたち組織の自滅・自爆につうじるのだ、まちがいなく。そんなことを、組織はだれも望まない。

ここまで忖度してから、警部の立場にもどった矢野。陸自の特殊工作員だった東ならば、闇の掟に着目したにちがいない。そこで独りひとり言ごちた。「こいつらなら、警察の眼をかいくぐって銃を売ってくれるはず、しかも闇のままに」

そうして東は、アンダーグラウンド情報を入手すべく、その方面にアンテナを張ったであろう。けっか、東が使えるとみた情報、すなわち、“関西から指定暴力団が出張ってきた“が、おそらくはその触覚にふれたのだ。

 縄張り争いはリスクがおおきい。それでも着手するのは、手にできる利がおおきいからだ。とくにヤクは。それと、買い手にもよるのだが、銃の密売もわるくはない。

阪神地域を基盤とする根城では自粛を余儀なくされているぶん、あがりの不足分をかせがそうと、出城に命ずるはずだ。

この手のウラ情報だが、陸自にいて耳をすましていれば、手にすることはむずかしくないらしい。矢野はそんなことも以前、同期の警部補(暴対課)からきいたことがあった。

さて、以上の内容だが、まだ想像の段階であり、ライフルの入手経路を断定できたわけではない。

しかしいっぽうで、兵庫山口組から以外、いまのところかんがえにくいのだ。既述したように、じぶんの組織維持に躍起であるとの消去法により、以後もないであろう云々。

 でもって、ここからが思案ではある。

せっかく、被疑者が目のまえにいるのだ、追いつめ、自白させるべく、そのための妙案はないか?は、当然だった。いっぽう、いやいや、まずは慎重をきし、メールの存在と文章の確認をまつべきではないかとの思案も。しかし出てこなかったばあい…にたいする妙手はない。

それで直後に、即決したのだ、迷っていても進展はないと。たしかに、まだメールのやりとり確認はできていない。しかもまちがいなく、東は全削除をしている。残るは、出来がいいとはいいがたい売り手だけ、となる。

団員しだいとは、心細いかぎりだ。が、だからといって、無為のままとどまるわけにいかない!

さらには、たとえば学校のテストで、最初にきめた答えが正解だったと、ほぼだれもがそんな経験をしているのではないか。ぎゃくに、迷ったあげくまちがった選択をしたにがい経験も。

この経験知もあり、心の奥がつぶやいたのだ、「こいつを追いつめろ」と。

あとは妙案だが、そうそうに捻りだせるものではない。かといって、やみくもに猪突するつもりもない。追いつめるに、ただ、経験も自信もそれなりには、との自負で、のぞむつもりではいる。

肚を決めたということだ。これからの取調べでじぶんたちがすべきは、運をみかたに強気とかまし(大阪弁、一種のおどし)、ついでハッタリの活用につきると。ところでこのハッタリだが、根拠がないわけでもなかった。

第一番目は運だ。まちがいなくじぶんたちに微笑みかけている。

いうまでもないが、チンピラが刺殺された時期、くわえて、ナイフを隠しもっていたことでガサ入れができたこと、もしも事件のタイミングがずれてしまったり、そのうえでナイフ不所持だったならば、捜査は進まなかったのである。

それだけでも、矢野は強運のもち主といえるだろう。

あとは強気と、ハッタリやかましで自供においこむ、得意の手腕にかけるしかなかった、否、それで行くときめたのだった、強く。