それを潮時(グッドタイミング)とみて、矢野は供述をとることにした、しかも、ある策略をかくしもっての。

「事件にかんし、いくつか教えてほしいんだが、いいかな?」

 連続殺人犯は、無表情のまま、ちいさくうなずいた。

「まずは第一の事件では銃を、二番目は爆発物をつかって殺害を」

「待った!」矢野の発言をさえぎるべく、東は卒然としてどなった。同時に、眼が尖とがりきった。

しかしながら、目のまえの警部の優秀さを痛いほどにしったあとだけに、感情的になれば二の舞だと、こんどは充分にこころしているようすである。

他方、なにがあったのか、今しがたの意気消沈ぶりは、いったいどこへいったのか、和田たちは首をかしげるばかりであった。

 東という男の強したたかさ、メンタルの強さを、ベテラン和田といえども見抜けなかったということだ。

内心の強靱。

ひとつは、尊敬していた父親を殺された、その地獄の悲嘆から立ちあがった強固さ…これは、両親を強殺(強盗殺人)された矢野もおなじ…だ。もうひとつは、特殊部隊における数年間の、人間性さえ変えてしまうほどに強悍(強く猛々しいさま)を強しいる苛烈な訓練によった。

「いまのは何ですか」声も態度も、しかし、落ちつきはらっていた。「第一とのたまう。さて、どんな事件なんでしょうか?で、まさかですが、このボクを犯人と、勝手に決めているんじゃないでしょうね」

場壁元首相狙撃事件をさしていることなど、はなから承知の極悪犯であった。だが、おくびにも出さない。若造らしからぬ、手練れの駆け引きである。