いっぽう、キミから、あなたへと丁寧になったのを、連続殺人犯は聞きのがさなかった。
「ボクは犯人ではない!だから部屋から、なにもでるわけがない。忠告しておくが、税金のムダ遣いとなるから、しらべるなんてまあ、やめたほうがいいよ」ふふふと、こんどは明らかに笑ったのだった。自信のあらわれである。
東は、心中おもったのだ。
連続殺人の立証なんてできるはずがない。脅しとカマかけはできても、所詮、こいつらは無能だから。じぶんはせいぜい、窃盗で有罪となるだけ。ボロ軽トラとドローンの窃盗、いや待てよ、ドローンのほうだが、バカな警察が立証できるかどうか。
被害者は、“窃盗犯は女性だった”と証言するはずだし、どこにも指紋をのこしていない。河川敷で、ドローンの操縦訓練中のすがたを目撃されていたとしても、顔を隠していたから、じぶんだと特定できるはずがない。だから、じぶんと結びつける証拠はないのだ。
胸中の模様はつづく。
なるほど、疑いはぬぐえないだろう。だが、しょせんは曖昧模糊なのだ。したがって、うたがわしきは罰せず(被告人の利益に、が本来)の大原則が、じぶんをすくってくれるにちがいない。
おかげで、窃盗の初犯として、執行猶予つきの有罪判決で処罰されるのみ、これにて一件落着!となるのだ。これが、笑わずにおれようか。
ただし、だった。状況からみて、冷笑したからといって、先刻の怒りが消えたわけではなかった。矢野たちの言動によっては、再燃することだってありうるのだ。
いっぽう、ぎゃくに矢野が、怒りの再燃という手をつかい、東の平常心に波風をあえてたてる手腕もないとはいえない。ただ、そんな場面を、いくら矢野警部でも、設定できるかは、不明だ。
あとは弁護士待ちと決めこんで、勝利に浸っている極悪犯に、どうやったら鉄槌をくだせるか。くやしいかな、
矢野係の面々も、それを見通せないでいる。ただ、警部ならきっとと祈る想い、いやちがう、信じてはいるのだ。しかしながら、証拠不充分であることは、否めないじじつである。
ぎゃくに追い詰められているのはじぶんたちで、なのに、起死回生の逆転サヨナラ満塁ホームランを、ふてぶてしくもイマイマしいこの若造あいてに、はたして打ち返せるのか。
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