ではほかに?と、試行錯誤(いろいろ試しつつ、成功にちかづける)のための思考をつづけた。それこそ、マッターホルン東壁(ひとを拒絶する、東の絶壁として有名)に爪をつきたてんとする懸命さで。

まさにだ、必死でかんがえぬいてはくびを傾げ、思索をかさねてはため息をついたその果て、やがていきついた結論。

くやしいが、もはや、これしかないと苦しまぎれにつぶやいた「それでも人間は、どこかでミスをする。完全犯罪なんて、ありえない!」は、しかし、どこか負け惜しみにきこえる。やつのチョンボ頼みというのは情けないはなしだし、だいいち、ミスをしたとはかぎらない。

それを自覚しつつもいっぽうで、トロイアの木馬の例もあると矢野。外敵をはね返しつづけた無敵のトロイア。ではあったが、敗残国のおき土産としての巨大な木馬に欺(あざむ)かれ、鉄壁の都市国家も、存外かんたんに、滅ぼされたではないか!

たしかに、犯人の計画はみごとというほかない。で、じぶんたちは後塵を拝し(後れをとる)つづけたのである。切歯扼腕(歯噛みするほどにくやしい)のきわみだが、みとめざるをえない。

しかしながらも、いずれは、なんとか絶妙なる一手をと。そのきわみだが、決定的な証拠の入手である。

そのためには、闘志だけでも横溢(あふれさせること)させねば!気持ちでもまけてしまえば、完敗でおわってしまう。

意気ごみだけでも充溢させ、でもって、活路を見いだすしかない。

客観的には、万策尽きたかにみえるいま、いい意味で、もはや開き直るしかない。そのうえで、しゃにむに大逆転をねらう、それに尽きるということだ。

問題はただひとつ、具体的にはどんな妙手があるか、である。