検出した爆薬の精密検査を懇請し、その結果がでたとの、であった。徹夜しての“成分、完全一致”というみじかい六文字に、矢野はおもわず相好をぐずしたのである。

 じつは、取調べ、いや、自供させるタイミングにあわせての結果をいそがせていたのだ。

 あとは藤浪がもたらす、その情報まちだった。そのための、時間かせぎが必要となった。

「なるほど、そうきたか。つまり、硝煙反応がでるはずの手袋やコートの類も、完璧に処分したってことだね」

第一と第三の狙撃事件においては、冬の屋外であったため、指先がかじかまないよう、手袋をしていたはずだと。また、リバーシブルのコートの袖口にも、火薬が飛び散っており、…しかしながら、それを検知できない状況に、落胆してみせたのである。

「もし犯人が処分したとしたなら、うつ手、ないよなあ」いうなり、鼻息が嗤ったのだった。

と、敵の思いあがりだといわんばかりに突然、「ほら。銃撃の証拠ならすべてオレが処分したと、そう、こいつの唇に書いてあるの、和田さんにも見えるでしょう」そんな軽口を、すこぶる上機嫌で発したのだ。

「ところで証拠だが、残念なことに、証明できるとおもうよ」それから、静かに笑った。静穏さのなかに、自信がこぼれ落ちていた。

そのようすを見た東は、はったりだろうとて、デカの肚を探ろうとした。証拠など、見つけられるはずないと確信はしているが、それでも刑事の自信が気になったからだ。

「なぜなら、いまごろは優秀な鑑識が、キミんちにあったパソコンを弄いじくっているからね。裏サイトでライフル等を購入したことを、証明するために。それでダメなら最終兵器がひかえているし。ですよね、和田さん」この発言もまやかしで、じつはひっかけるためであり、矢野らしいものだった。

ところがだ、安どの表情で「はっはっは!」と。さらに「はっ!なるほど、裏サイトね」あざけりつつ言ったのだ。ほんとうは、百年たっても見つからないと教えて、嗤ってやりたかった。が、手の内をさらすことはできない。“それこそ残念!まあ、せいぜい冷汗をかきなさいよ”を、それで、のどの奥にとどめたのだった。