いっぽう、一抹の不安が、東のかすかな眼の動きと眉からみてとれた。
この、絶好のタイミングをはずすまじと、
「あ、言うの忘れてた。さきほどの電話だけど、じつに、吉報そのものだったよ。それはな…」と、これみよがしに破顔(ニッコリ)したのである。
その、屈託のなさ(晴れやかさ)に、東は愚弄するなと、内心むかついた。つい、かれの若さが出てしまったのである。
じつはこの、矢野が醸かもした腹だたしさも不安感も、知らず知らず、術中にはまりつつある証左(証し)であった。
「おまえの部屋で押収できた物質が爆薬だということを、簡易検査ではあったが、反応がでたおかげで確認できた」と、爆薬を押収できたこと、および“確認”の言辞を強調し、さらにつづけた。「精密検査でもおなじ結果がでると確信してるよ」
いまは、簡易といえども精度があがっており、精密検査は四年前にできた刑事訴訟法改正にともなったいささか古い制度で、あえていえば、もはや、念のためでしかなかった。
簡易と精密とで、検査結果がちがったとの報告、ここ一年、そんな事例をだれもしらない。だから、確定といってもさしさわりはないのである。
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