と、このとき、水入りではないが、矢野のスマフォが鳴った。

「どうでした?出ましたか」矢野は、期待しつつ問うたのだった。

「おそらくは、だいじょうぶかと」信頼する、経験ゆたかな鑑識課長の返事だった。

むろん、このやりとり、誰とのかも、具体的内容も、察しのつきようがない。

 でもって、矢野はポーカーフェイスで、電話をきったのだった。

「野暮用の電話で、失礼したね。さて、どんな裁判員や裁判官も検察側の主張をみとめるだろうな。なぜなら、うちの優秀な鑑識がキミの部屋のゆかを徹底的に吸引したにちがいなく、そのあとは科捜研が必ずや、爆薬の残骸をみつけだすだろうからな」

 と、これでどうだ!観念しろといわんばかりの口吻だった。たしかにガサ入れによる物証の採取など、捜査のほうも最終局面まできている感がある。

東にすれば、行方不明者さながらに徹して潜伏したのに、現住所まで突きとめられたのだから。くわえての、矢野の自信にみちた言動。

これは悪夢か?いや、まさに絶望!ともなろう。

断崖絶壁に追いつめられ、進退ここにきわまり。時代劇なら「畏れいりました、お縄をちょうだいいたします」で、チャンチャンとなってもおかしくないのだ。