投稿者: jyuri (page 2 of 40)

~秘密の薬~  第二部 (157)

とめどなくながれる涙に、夫はハンカチを手わたすと、悲しみと慈愛の眼差しでより添ってくれたのだ。うち震える肩には、さりげなく情愛の手が背をさすったのだった。さらにやさしい声が、哀惜や辛酸でみちた心をなぐさめてくれる日々であった。

~秘密の薬~  第二部 (156)

それでもこのときはまだ、救いはあった。創薬に忙しいさなかも、夫が支えきってくれたという真実。

~秘密の薬~  第二部 (155)

こういう事実、だからだけではないが当然のこと、愛息の死のときも精神の錯乱は(比較できないが)ひどく、また長くつづいたのである。

~秘密の薬~  第二部 (154)

だからこそ支えあっていた夫婦の絆は、いっそう強固になったともいえるが。 いっぽうで、家族という視点からすると、寂しいかぎりの三人きりでしかなかった。

~秘密の薬~  第二部 (153)

だが、夫婦ともにそういう存在はいなかった。こんなとき身近での頼れるひとがいないというのは、残念なことである。不幸ですらある。

~秘密の薬~  第二部 (152)

せめて近しい伯父や叔母など、物心がついたころからの親族がいてくれれば違っていたのだろう。頼めばすくなくとも数日間だけでも、そばにいて慰めてくれるからだ。

~秘密の薬~  第二部 (151)

たしかに、未亡人となった身を憐れみ、駆けつけてくれたのはありがたいことだと。

しかしながら、やはり違っていたのだ。

~秘密の薬~  第二部 (150)

とはいえ、むろん地に足ついた状態ではなかった。

なるほど、親身になって、慰めてくれる友人たちも日替わりのようにやってきてはくれた。だがそれでも、救いとなることはなかった。

~秘密の薬~  第二部 (149)

ただただ混乱のなか、警察署でおしえられるままに手続きをし、とりあえず遺体を引取ることがまずはできたのだった。

直後、年かさの担当官が個人の判断で、親切にも葬儀社に連絡してくれたのだ。

で、そこの社員に支えられ、喪主として葬礼の務めも、おかげでどうにか終えることができたのである。

~秘密の薬~  第二部 (148)

ただただ混乱のなか、警察署でおしえられるままに手続きをし、とりあえず遺体を引取ることがまずはできたのだった。

« Older posts Newer posts »