ちなみに局長クラスからの命令ともなれば、部下は唯々諾々とその命を実行するだけで、異論をはさむやつなどいるはずがない、とかれらは高をくくって生きてきた。

それが茶飯事であり、だから習慣化しており、異をとなえる人間がいるかもしれないなどは、思考の外であったろう。

結果的にはそんな慢心が、“面従腹背”というほころびを生んだのである…。だが、顕在化するのはさきの話しだけに、今はおく。

でもって、高級官僚たちからの要望で合流会議に参加した部外者はふたり。

その内のひとりが会議の早々、六人からの依頼を、“脅迫めいた要請”とそう肌でかんじたのだった。

というのも依頼を受諾しなければ、社の、まだ発覚していない社会通念上の企業倫理にもとった過去の事実、だけでなく、企業イメージをダウンさせる不祥事までも、「それがリークされねばよいが」と、一種の恫喝をこれ見よがしにしたからだ。

さらには要請の内容においても寝耳に水で、しかも強要にちかいその事柄自体の法律違反(この部外者による契約違反という違法性よりも、極秘会議での議題の違法性こそが、重大すぎると数年後にはそれが大問題に)に、かれは堪えきれず、

「恐ろしいことに巻きこまれてしまった。霞が関の中枢がこれほどの悪質な違法行為をしてもいいのか…」と、白髪まじりの頭を掻きむしりつつおもわず、自宅リビングで漏らしてしまったのである。