しばしの静寂の戦いくさに、やや気おくれした連続殺人犯が、息づかいをすこし荒くしながら、「この件にかんしては堂々めぐりだしな」と唐突に。

東はあきらかに、自供をなかったことにしたいのだ。

 矢野たちは勝手ないい分とおもったが、最後までいわせることにした。狙撃事件にかんして言わずもがなでポロッと、まさに“かたるに落ちる”を、しでかすかもしれないからだ。

「そこでだ、あんたが問題にしていた狙撃事件のこと、一体どう扱うつもりなのか、忌憚のないところを、よかったら教えてもらえないかな。元首相の殺害、だれもが興味あるだろうし」狙撃事件ならば、証拠隠滅を完遂している。

つまり、圧倒的有利のホームグラウンドといっていい。だから勝負できるとかんがえたのだ。

「おまえが犯人ではないというのなら、関係ない話しだから、どうでもいいだろう」とは矢野、口が裂けても言うつもりなかった。

それどころか、願ってもない好機到来だと、肚でほくそえんだのだった。しかしうわべ、乗り気なさそうにはみせた。

「正直、物証がでてこなかったのでまいっているんだよ」と、ため息をついたのだ。敵どうしなのに、まるで、友達にグチでもつぶやくように。あるいは、敗北宣言でもしているかのように。

 本音は、先刻まいたエサ(第一の殺害事件)に食いついてくるのを、手ぐすねをひいて待ちかまえていたのである、最後は、すべてをゲロさせる所存で。

 ただ現状、決め手にかけていた。逃げ得をはかろうとするあいてを、そうはさせじと袋小路においこむ材料、つまり証拠、それが舞いこむのを今か今かと待っているのである。